韓国では今年、AI事業者に対するリスク管理責任が一段と重くなる。1月には「AI基本法」が施行され、AI生成物の表示義務や高影響AIの安全管理基準が導入される。あわせて政府は、産学研向けの先端GPU供給を本格化させる。2026年下半期には、虚偽・改ざん情報の流布に対し、損害額の最大5倍を賠償させる加重賠償制度も始まる見通しだ。
政府と国会関係者によると、韓国のIT・放送通信業界では今年、AIガバナンスの制度整備と独自AIモデルの確保に向けた動きが加速する。虚偽・改ざん情報の流通を巡る制裁も強化される。
◆AI生成物の表示を義務化、高影響AIの管理も明確に
1月22日には、「AIの発展と信頼基盤の造成などに関する基本法」(AI基本法)が施行される。政府は同法を、AI振興を進めつつ、安全性と信頼性を確保するための基本法と位置付けている。
同法の柱は、AIの透明性と安全性の確保、高影響AIの基準整備、事業者責任の明確化だ。科学技術情報通信部は、必要最小限の規制を通じてAI産業の育成を図る考えを示している。
施行令によると、事業者は高影響AIまたは生成AIを活用した製品・サービスを提供する際、事前告知やウォーターマークの付与など、AI生成物であることを示す表示を行う必要がある。さらに、演算性能が10の26乗フロップス以上で、高度な技術を適用したAIシステムについては、リスク要因の確認や緊急対応計画の策定を求める。AI事業者のリスク管理・監督責任を強化する内容だ。
一方で政府は、制度導入初期の混乱を抑えるため、当面は指導を中心に運用する。施行令違反に対する最大3000万ウォンの過料適用は、少なくとも1年間猶予する方針だ。
先端GPUの活用支援も本格化する。科学技術情報通信部は2025年の補正予算で、GPU約1万3000枚を確保した。このうち政府活用分の1万枚を2月から、産業界、大学・研究機関、国家レベルのAIプロジェクトなどに本格配分する。
同部は2025年12月、オンラインプラットフォームを通じて産学研の課題受け付けを開始した。関係省庁の需要調査を踏まえ、分野別AXなど国家AI革新をけん引するプロジェクトの発掘も進める。
2026年下半期には、「独自AIファウンデーションモデル」プロジェクトを通じて、世界トップ10水準の独自AIモデル確保を目指す。現在は、Naver Cloud、Upstage、SK Telecom、NC AI、LG AI Researchの5チームが独自AIファウンデーションモデルを開発している。
政府は、これらのモデルを段階的に公開し、オープンソースとして提供することでエコシステムの拡大を促す方針だ。今月中に初回の段階評価を実施し、下位1チームを外して4チームを次段階に進める予定としている。
◆虚偽・改ざん情報の流布に最大5倍賠償
2026年下半期からは、虚偽・改ざん情報を悪意を持って流布した場合、その流通で生じた損害額の最大5倍を賠償しなければならなくなる。
2025年12月には、「情報通信網利用促進および情報保護等に関する法律」の公布案が国務会議で議決された。いわゆる「虚偽・改ざん情報根絶法」とされる法案だ。
改正案では、大統領令で定める掲載者であり、事実や意見の伝達を業とする者による虚偽・改ざん情報の流通行為について、意図性、目的性、法益侵害の有無という要件をすべて満たす場合、裁判所が損害額の5倍以内で加重賠償額を定められるようにした。
違法情報または虚偽・改ざん情報と認定され、刑事有罪判決、損害賠償判決、訂正報道判決が確定した内容を情報通信網上で繰り返し流通させた場合には、放送通信委員会が最大10億ウォン(約1億1000万円)の課徴金を科すことができる。
もっとも、この情報通信網法改正案については、市民社会を中心に報道と表現の自由を萎縮させるとの批判が続いている。米国政府も懸念を示しており、外交摩擦に発展する可能性も取り沙汰されている。
米国務省は先月31日、この法律に関する見解を問われ、報道官名義で「米国は、韓国政府が、米国に拠点を置くオンラインプラットフォーム事業に否定的な影響を与え、表現の自由を弱めるネットワーク法改正案を承認したことに重大な懸念を抱いている」との認識を示した。
これに対し政府と、法案通過を主導した与党は、加重賠償の対象から、「公益通報者保護法」上の公益侵害行為に関する情報や、いわゆる「キム・ヨンラン法」で禁じられた行為に関する情報、これに準ずる公益的関心事に当たる情報など、公共の利益を目的とする情報は除外したとの立場を示している。