人工知能(AI)が経済全体の生産性を押し上げる一方で、AIの成果物を人間が確認・検証するコストが、新たな経済的ボトルネックになる可能性がある。こうした見方を示したMITの論文に対し、暗号資産業界でも関心が広がっている。
ブロックチェーン系メディアCoinPostが11日(現地時間)に報じたところによると、マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者クリスティアン・カタリーニ氏らが2026年2月に公表した論文「Some Simple Economics of AGI」は、AIと経済構造の関係を分析し、「検証コスト(verification cost)」を中核的な変数として位置付けた。
論文では、AIが計算や実行にかかるコストをほぼゼロに近づける一方、AIが生み出した結果を人間が確認・検証する工程は、生物学的な制約から大幅には削減しにくいと指摘。この非対称性が、経済システムに新たな制約をもたらし得ると論じた。
研究チームはこの隔たりを「測定可能性ギャップ(measurability gap)」と定義した。AGIへの移行期に、AIが人間の認知能力を上回り、多くの測定可能な労働を担うようになれば、このギャップが経済成長の主要な制約要因になり得るとしている。
さらに論文は、この問題が解消されなければ、生産活動だけが拡大する一方で人間の統制力が弱まる「ホロウ・エコノミー(hollow economy)」、すなわち経済の空洞化が生じるおそれがあると警告した。
その対応策として挙げたのが、「暗号学的な出所証明(cryptographic provenance)」を含む検証インフラの整備だ。AIが生成した情報や行動について、出所を技術的に証明し、追跡できる仕組みが必要だとしている。
こうした指摘は暗号資産業界でも注目を集めた。暗号資産ウォレットサービスExodusの共同創業者JP・リチャードソン氏はX(旧Twitter)で、「暗号資産に対抗する銀行が最終的に敗れる理由を、この論文は説明している」との見方を示した。
同氏は、AIエージェントが自律的に経済活動を行う環境では、改ざん耐性のある台帳とスマートコントラクトに基づく責任配分の仕組みが必要になると指摘。ブロックチェーン技術が中核インフラになり得ると説明した。
もっとも、論文そのものが暗号資産や特定の技術を直接支持しているわけではない。研究チームは、「検証可能な出所証明」をどの技術で実装するかについて、具体的には示していない。
一部の専門家の間では、ブロックチェーンは有力な候補の一つになり得るものの、スケーラビリティやコスト、規制対応といった実務上の課題はなお残るとの見方もある。
それでも、暗号資産業界が学術研究を足場に議論を広げている点は注目に値する。暗号資産の正当性を巡る論点が、単なる技術論から、経済構造の変化という文脈へと移りつつあることを示す動きといえそうだ。