米電池技術企業のIon Storage Systemsは3月10日、全固体電池「Cornerstone Cell」が顧客による性能検証を完了したと発表した。研究開発段階にとどまりがちだった全固体電池の実用化に向け、一歩前進した格好だ。
米EV専門メディアのElectrekは同日、同社が今回の成果について、米国の固体電池企業として初めて顧客検証を完了した事例だと説明していると報じた。全固体電池が研究室レベルから実際の産業利用に近づいていることを示す節目とみられる。
今回の検証は、同社が2025年8月に産業機器、民生機器、車載分野の企業へサンプルセルを供給してから約半年で完了した。顧客側が実使用環境でセル性能を評価し、所定の検証を終えたという。
Ion Storage Systemsの最高経営責任者(CEO)、ホルヘ・ディアス・シュナイダー氏は、「Cornerstone Cellによって、顧客とともに性能検証を完了した米国初の企業となった」とコメントした。そのうえで、メリーランド州で生産を開始し、より多くの顧客との協業を通じて、リチウムイオン電池の限界を超える技術革新を進める考えを示した。
同社は、無負極(anodeless)構造の全固体電池を中核技術に据える。一般的な電池が正極と負極の両方を備えるのに対し、無負極方式は初期の負極を使わない構造で、エネルギー密度と安定性の向上が見込めるとしている。
最高技術責任者(CTO)のグレッグ・ヒッツ氏は、全固体の無負極電池を研究室から実使用環境へ移行できたことは、同社にとって重要な節目だと説明した。高い高温安定性と優れた性能を両立できる独自技術を保有しているとも述べている。
市場戦略も特徴的だ。多くの電池メーカーが電気自動車向けを最優先するのに対し、Ion Storage Systemsはまず産業機器と民生機器向け市場を重点ターゲットとする方針を取る。技術の安定性を見極めながら、初期需要の取り込みを急ぐ狙いがある。
同社は、この戦略は過去の電池産業の普及過程とも重なると説明する。リチウムイオン電池も1990年代にはノートPCや携帯型電子機器向けで先行して商用化され、その後、スマートフォンや電気自動車など、より大きな市場へ広がっていった経緯がある。
初期生産は、メリーランド州ベルツビルの工場で進める計画だ。同社は現在、同工場の拡張を進めており、2026年に新たな焼結炉を導入して本格生産を開始する予定としている。
今後、需要が拡大した場合には、ベルツビル工場を上回る追加生産能力の確保も検討する。量産体制の拡充に向けた構想はすでに策定しているという。
全固体電池は、商用化が進めばエネルギー密度や安全性、充電速度の面で既存電池を大きく上回る可能性がある次世代技術として期待されている。一方で、量産技術の確立とコスト競争力の確保はなお課題であり、今回の顧客検証完了が商用化拡大に向けた重要な試金石になるとの見方も出ている。