写真=9日、デモ後に対話するイ・セドル九段(右)とイ・スンヒョンEnhance代表。デジタルトゥデイ、Seulgi Son記者

3月9日、ソウル市内のフォーシーズンズホテルで開かれたEnhanceのイベントで、イ・セドル九段が同社の「Enhance AI OS」を使った囲碁AI開発デモを披露した。音声で指示を出すだけで、要件整理から設計、実装、配布までを約20分で進め、完成したアプリで実際に対局も行った。

このデモは、Enhanceが開いた「AI協業時代宣言」イベントの一環として実施された。2016年にGoogle DeepMindの「AlphaGo」と歴史的な対局を行ったイ・セドル九段が、今回は対戦相手ではなく協業相手としてAIと向き合った形だ。

会場でイ・セドル九段が行ったのは、イ・スンヒョンEnhance代表と「囲碁は難しく、初心者が挫折しやすい」「AIの先生がいればどうか」「最初は9路盤から教えるとよい」といった会話を交わすことが中心だった。Enhanceによると、AI OSはその会話をリアルタイムで分析し、要件を抽出。複数の専門エージェントが連携しながら、企画立案、デザイン、コーディング、配布までを順次進めたという。

Enhance AI OSは、AnthropicやGoogle、Black Forest Labsなど外部のAIモデルを組み合わせ、専門エージェント同士を協調動作させるマルチエージェントのオーケストレーション基盤とされる。

デモの基盤となったのがオントロジーだ。特定分野の知識や相互関係を構造化し、AIの文脈理解を支える知識表現技術を指す。Enhanceはイベントに先立ち、オブジェクト133個、リンクタイプ156個、属性99個で構成されるイ・セドル九段の知識マップをあらかじめ整備していたと説明。囲碁観や教育への関心、主要発言の文脈などを反映したとしている。

OSエージェントは2人の会話から要件を抽出してオントロジーに保存し、PMエージェントはWikipedia、GitHub、Amazonの書籍、YouTubeなど約100件を調査して企画書をまとめた。さらに「モダンで洗練された感じに」「点数や着手記録も一緒に見られるように」といったイ・セドル九段の音声による追加要望も反映されたという。

デザイン工程では、デザインエージェントが3種類の画像生成モデルに同時に試案を作成させ、イ・セドル九段はGoogle Gemini 3.1 Flashベースの「Nanobanana 2」が出した案を選択した。コーディングエージェントはAnthropicのClaude Opusを使ってHTMLとJavaScriptでアプリを実装し、オープンソースの囲碁AIエンジンとも連携。19路盤と9路盤の両モードに加え、手の候補提示や形勢判断の機能も搭載した。完成したアプリが画面に表示されると、イ・セドル九段は追加修正なしでそのまま対局に入った。

イ・セドル九段は「バイブコーディングを少し経験したが、途中で壁にぶつかった。何も分からない状態では簡単ではない。ただ今回は、実質的に自分がやったことはほとんどなかったのではないか」と語った。

今回のデモを支えたのは、この10年で大きく向上した計算資源だという。2016年のAlphaGoはCPU1920個、GPU280個を投入した一方、この日使われたハードウェアはNVIDIAの「DGX Spark」1台だけだったと説明した。

完成後のアプリでは、イ・セドル九段が実際に対局した。イ・セドル九段が黒番、AIが白番を持ち、対局中には形勢を見ながら「最高性能のAIという感触ではないかもしれないが、個人的には人間が勝ちにくい水準で打っている。人間が勝てる絵ではない」と評した。

AIの打ち筋については、「AIはこれらの石をすべて取ってしまったが、地合いはいい。人間ならこういう取り方はしない。発展の余地で見ると黒はかなり限られている一方、白は非常に大きい。これがAIの違いだ」と説明した。短期的な得失よりも、長期的な展開可能性を重視した打ち回しだという見方を示した格好だ。

今回は学習用の囲碁モデル構築を示すデモとして行われた。イ・セドル九段は、AlphaGo戦で1勝4敗を喫した後に引退し、その後も自宅で1人でAIと対局した経験に触れ、「AIは20秒、自分は持ち時間無制限という条件でも、長い時間をかけて結局1手も打てないことがあった。無制限でも結局はだめで、どんな手を使っても勝てない壁を感じた」と振り返った。

その上で、「当時のAlphaGoの水準と比べても、今回はそれを超えたと見るのが自然だ。感触としては、人間が勝つのは難しい能力を備えている」と述べた。

対局中には、囲碁教師機能がリアルタイムで手の意味を解説する場面もあった。AIは「隅から確保するのが有利です」「散らばった石同士がつながると、堅い城を築いたように安全になります」などと助言し、イ・セドル九段が感嘆する様子も見られた。

Enhanceは今回のイベントについて、「2016年に人間がAIに負けた物語を、人間がAIを作る物語へと反転させたかった」と説明した。イ・セドル九段もこの10年のAIの進化に触れ、「本当に10年でここまで来た。変化のスピードは非常に速い。3〜4年前でも想像できなかった。AlphaGoの後にも新しいものは出ると思っていたが、実際に変化が始まってからの速度と破壊力は想像以上だった」と話した。

一方で、AIの限界にも言及した。「人間は相手との記憶や感情を一手一手に込め、責任も負う。AIにはそれがない。個性も感情もストーリーもなく、効率的に打つだけだ」と述べた。

さらに、「AIにできない部分もあり、人間にしかできない領域もある。いまのようにAIと協業すれば、本当にこれまでと違うものを見せられる」と強調した。

囲碁教師機能については、「AIが囲碁で強いのは驚くべきことではない。むしろ先生役の機能の方がさらに驚きだ」と評価する一方、「まだ改善の余地はある。時間がもっとあれば、さらに良い形になったはずだ」と語った。

イベントにはAnthropic、NVIDIA、Microsoftが公式スポンサーとして参加した。EnhanceはSamsung Electronics、P&G、Philipsなどを顧客に持ち、累計295億ウォンを調達したとしている。2025年にはPalantir Startup Fellowshipに韓国企業として唯一選ばれ、グローバルWebエージェントのベンチマーク「Online-Mind2Web」ではコマース分野で1位を記録したという。

イ・スンヒョン代表は「AlphaGoとの対局が人間とAIの競争を象徴したのだとすれば、いまAIは人間と共に問題を解く協業パートナーになっている」と述べた上で、「オントロジー、エージェンティックAI、大規模行動モデル(LAM)を標準化し、世界の企業がエージェンティックAIと協業するAI OSの時代を開く」と表明した。

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