Anthropicは5日(現地時間)、AIが労働市場に及ぼす影響を分析した報告書「AI’s Impact on the Labor Market: New Measure and Early Evidence」を公表した。実際の利用状況を反映した新指標「観測露出度(Observed Exposure)」を用いて職種別の影響を試算した結果、AIへの露出が高い職種でも、現時点では失業率の上昇は統計的に有意ではないとした。
報告書の柱となるのは、AIによる代替リスクを測る観測露出度だ。従来の研究がAIの理論上の能力を基準にする傾向があったのに対し、この指標は実際の利用データも織り込む。自動化や業務利用への寄与を重視し、雇用への実質的な影響をより精緻に捉える設計だという。
試算に当たっては、米国の職業情報データベースO*NETに収録された約800職種のデータに加え、Anthropic Economic Indexの利用データ、Eloundou研究チームによるタスク別の露出推計を組み合わせた。
分析では、AIが理論上こなせる業務と、実際に業務で使われている範囲との間に大きな隔たりがあることが示された。例えば、コンピューター・数学関連職では、理論上は業務全体の94%をAIが処理可能とされる一方、Claudeの利用実績ベースでは33%にとどまった。事務・管理関連職でも理論上の露出度は90%に達するが、実利用はそれを大きく下回った。
Anthropicは、こうした乖離の要因として、法的制約やソフトウェア面の要件、人による確認プロセスなどを挙げている。
職種別の観測露出度では、コンピュータープログラマーが74.5%で最も高かった。以下、カスタマーサービス担当者が70.1%、データ入力担当者が67.1%、診療記録専門職が66.7%、市場調査アナリストが64.8%で続いた。金融・投資アナリストは57.2%、ソフトウェア品質保証アナリストは51.9%、情報セキュリティアナリストは48.6%だった。
一方、料理人、バーテンダー、オートバイ整備士、ライフガードなどの現場職は露出度0%に分類された。AI利用が観測されなかった職種群で、全労働者の30%がこのカテゴリーに含まれるという。
米労働統計局(BLS)の雇用見通しと照らし合わせると、AI露出度が10ポイント高まるごとに、2024~2034年の雇用成長率見通しが0.6ポイント低下する相関も確認された。
高露出職種で働く人材の属性にも特徴がみられた。ChatGPT公開直前の2022年8~10月時点では、露出度上位25%の職種は、非露出職種に比べて平均時給が47%高かった。女性比率は16ポイント、白人比率は11ポイント高く、大学院卒以上の比率も4.5%に対して17.4%と、およそ4倍の開きがあった。
もっとも、2022年11月のChatGPT公開以降、足元までのデータでは、高露出職種の失業率上昇は統計的に有意ではなかった。研究チームが露出度上位25%の職種群と非露出職種群の失業率の推移を比較したところ、両者の差に目立った変化は確認されなかったとしている。
この結果について報告書は、AIの影響が新型コロナウイルス禍のように急激に表れるのではなく、インターネットの普及や中国発の貿易ショックのように、より緩やかに進む可能性を示していると分析した。
一方で、例外的な兆候もみられた。22~25歳の若年層では、AI露出職種における新規採用が2022年比で14%減少した。非露出職種の月間就業率がおおむね2%で安定しているのに対し、高露出職種では約0.5ポイント低下したという。25歳超の層では同様の減少は確認されなかった。
研究チームは、これをAIによる初期的な雇用影響の可能性としつつも、就業ではなく学業への復帰や別職種への移動といった別の解釈も成り立つと指摘した。
Anthropicは今後、雇用統計やAI利用データの蓄積に合わせて分析を継続的に更新する方針だ。報告書は同社のリサーチページ(anthropic.com/research)で公開している。