写真=FintechBrainfood創業者のSimon Taylor氏(同氏のXアカウントより)

AIエージェントの普及で、決済の主役がカードからステーブルコインへ移るとの見方が一部で広がっている。だが、FintechBrainfood創業者のSimon Taylor氏は、カードとステーブルコインは代替関係ではなく補完関係にあると指摘する。AIエージェント時代の決済は、仮想カードの活用、カード決済の裏側の即時精算、ウォレット管理の3層で進むとの見方だ。

こうした議論が広がった背景には、Citron Researchが「ステーブルコインがVisaとMastercardを押しのける」とするリポートを公表したことがある。これを受けてカード関連銘柄が急落し、暗号資産業界では期待感が高まった。

これに対し、Simon Taylor氏はXへの投稿で反論した。AIエージェントが取引を最適化すればカード手数料が重荷となり、ステーブルコインがそれを置き換える――そうした見方は一見もっともらしいが、実態とは異なるとみている。

同氏は、ステーブルコイン自体を否定しているわけではない。ただ、「カードを代替する」という見方は現実的ではないとした。むしろ、AIエージェントはカードとステーブルコインを使い分ける形に落ち着く可能性が高いという。

同氏は「カードは資金移動を承認し、ステーブルコインは実際に資金を動かす。両者は競合ではなく補完関係にある」と説明する。いわゆる「エージェント型コマース」の多くは、最終的には人間の購買行動にAIがいくつかの工程を追加するにとどまるとの見方だ。

例えば、ChatGPTで商品を探してそのまま決済したり、価格が一定水準に達した時点で購入を代行させたりするケースがこれに当たる。この場合、決済手段として新たにエージェント専用の仕組みを持たせる必要はなく、ユーザーのカードをそのまま使えば足りるという。

カードネットワークとAI企業は、こうした利用を想定したプロトコルをすでに共同で整備しているとも説明した。

一方で、AIエージェントが別の大規模言語モデル(LLM)を利用したり、高額なデータセットを購入したり、他のエージェントサービスを使ったりする場面では事情が変わる。

現時点では、こうした支出の多くを開発者が直接行い、その利用権限をエージェントに与える形が一般的で、完全に自律したエージェント型の運用とは言いにくいという。かといって、エージェントにカードを直接持たせるのも危うい。過剰支出やプロンプトインジェクション、詐欺といったリスクを避けにくいためだ。

そこで必要になるのが、利用先や上限額を細かく制御できる決済手段だ。特定加盟店に限定し、あらかじめ設定した上限の範囲内でのみ使え、場合によっては1回限りで失効するような仕組みとして、同氏は仮想カードを挙げる。

同氏は「仮想カードは1回限りの利用設定、上限設定、加盟店カテゴリの制限、特定加盟店への固定まで可能だ。エージェントを1人の顧客として扱うなら、こうした統制機能が中核になる」と述べた。

もっとも、ステーブルコイン陣営もエージェント決済市場の取り込みを急いでいる。USDCを発行するCircleは、エージェント向けの超低コスト決済手段「Nanopay」を投入した。

CloudflareとCoinbaseは、HTTPの402ステータスコードを活用したインターネットネイティブの決済標準「x402」を発表している。アカウント登録やAPIキーなしでステーブルコイン決済を可能にする仕組みだという。

ただ、現時点で取引量はまだ限定的だ。カードがほぼどこでも使えるのに対し、ステーブルコインの受け入れ環境は同水準には達していない。

この点についてSimon Taylor氏は、エージェント型コマースにおけるステーブルコインの役割を2つの方向で整理する。いずれも、カードを置き換えるシナリオではない。

1つは、カード決済の裏側にある精算インフラとしてステーブルコインを組み込むことだ。決済代行会社がVisaから迅速に精算を受け、カード発行会社が外国為替取引銀行を介さず直接処理できるようになれば、表からは見えにくいものの、大きな効率化余地があるという。

例えば、エージェントがAnthropicのAPIトークンを大量に購入する局面では、売上の入金を待つ間に残高が不足する可能性がある。ステーブルコインによる即時精算は資金回転を高め、「カードを置き換えるのではなく、カードをより機能しやすくする」と同氏は説明する。

もう1つは、複雑なエージェントのワークフローにおけるネイティブな決済手段としての活用だ。

同氏は「エージェントが時折データを購入する程度なら仮想カードで十分だが、数十、数百のエージェントが動く組織では事情が異なる」と話す。仮想カード中心の運用では、マスターエージェントが下位エージェントの購入をすべて肩代わりする必要があるか、新たにカードを発行するたびにコストが発生するためだ。

これに対し、ウォレット方式であれば、下位ウォレットを即時に作成し、細かなルールも同時に設定できる。同氏は「ステーブルコインが安いからではない。用途に適しているからだ」と述べた。

さらに同氏は「カードとステーブルコインは、複雑性に応じて役割が分かれる。最初は仮想カード、その次にステーブルコインで精算するカード、最後にエージェント組織全体を管理するウォレットだ」と強調した。

その上で「AIはしばらく鈍く見えても、ある時点で一気に跳ねる。決済も同じだ。カードかステーブルコインか、という二者択一ではない。まずカードがあり、その先にステーブルコインがある」と締めくくった。

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