【ヒューストン】製造業で、設計から生産に至るプロセス全体にAIを組み込む動きが加速している。Dassault Systemesは、設計と生産を分断なくつなぐ単一データ基盤と、生産現場の「知能化」が今後の競争力を左右するとの見方を示した。
同社は、これまで紙文書に依存していた手作業中心の工程をデジタル化する段階から、AIを軸に複数部門・複数システムのデータをリアルタイムで共有し、意思決定に直接生かす「プラットフォーム主導型」へと製造現場が移行しつつあると説明する。
こうした考え方は、同社が米ヒューストンで現地時間1日から4日まで開催した年次カンファレンス「3DEXPERIENCE World 2026」でも主要テーマの1つとなった。
会期中には、DelmiaWorks部門責任者のデビン・マローン氏と、SolidWorksマネジャーのマイク・ブッフリ氏が記者向け説明会を開き、AIが製造業に与える影響と主な論点を語った。DelmiaWorksは生産現場を管理するMES(製造実行システム)で、3DEXPERIENCE Worksはクラウドベースの3D設計プラットフォームに位置付けられる。
両氏によると、消費者はワンクリックで製品を注文し、より短い納期を求める一方、企業側がそれに応える難易度は高まっている。製造工程の複雑化に加え、サプライチェーンの不安定さや人手不足が制約として残っているためだ。
新製品への需要は次々に生まれるが、それを安定して供給するには、高度に連携した生産システムが欠かせない。両氏は、こうした複雑な事業環境で、AIが課題解決の有力な手段になると強調した。
まず課題として挙げたのが、設計と生産の間にあるギャップだ。従来は新製品開発のボトルネックが設計速度にあるケースが多かったが、SolidWorksなど設計ツールの進化で設計のスピードは大きく向上した。その結果、今度は生産側が設計の進度に追随しにくくなっているという。
マローン氏は「人手不足や熟練者の離職、サプライチェーンの問題は、いまや製造そのものを阻害する要因になっている。生産現場をどう知能化するかが、企業競争力の中核になりつつある」と述べた。
解決策の1つとして両氏が挙げたのが、データの統合と活用だ。単なる文書保管にとどまらず、ERP(統合基幹業務システム)、CAD、PDF、現場のセンサーデータなどを一体化し、「single source of truth」となる単一データ基盤を構築する必要があるとした。
これにより、設計と製造の間にある大きな壁を取り払えるという。従来は設計部門が製造部門へ図面を引き渡す一方向の流れが中心だったが、今後は設計意図と製造現場の情報を相互に連携させることが重要になるとの見方を示した。
両氏は「製造業では、潜在的な問題に備えて余分に部品を確保することが多い。しかし、システムや製造工程を深く把握できていれば、そうした対応は必ずしも必要ではない。製造部門が設計意図を適切に活用できれば、予測可能性を高められる」と話した。
そのうえで、Dassault Systemesが提供するバーチャル・コンパニオンAI「Aura」の役割にも言及した。Auraは集合知の活用に適したプラットフォームで、利用者全員が共通の標準に基づいた正確な情報を参照できるようにするという。
AIの役割は、生産の自動化だけにとどまらない。両氏は、AIが「意思決定を支援する存在」へと広がっていると説明した。例えば、AIが部品形状を分析して加工のしやすさを判断し、最適な切削方法や工具を提案する。数十通りの加工方法の中から、最も速くコスト効率の高いシナリオを示し、作業者の判断を後押しするという。
こうした活用により、単純な反復作業を減らすだけでなく、工程全体の品質と予測可能性の向上も見込めるとしている。
さらにAIは、工程計画や工具手配のスケジュール策定を自動化し、過剰な部品確保や納期遅延の抑制にも役立つほか、設計と生産の情報断絶も縮小できるという。両氏は、こうした変化によって中小製造業でも大企業並みの精密な生産・運用が可能になり、競争力の確保において決定的な役割を果たし得ると述べた。