Teslaの4680電池。サイズ比較イメージ(写真:Shutterstock)

Teslaは、主力車種「Model Y」の一部で自社製の4680電池の採用を再開した。量産化の最大の壁とされてきた正極の乾式電極工程にめどが付いたことで、電池内製化を一段と前に進めた格好だ。

同社は1月の決算発表で、4680電池を搭載したバッテリーパックをModel Yの一部に組み込み始めたと明らかにした。これまで4680電池を巡っては、生産歩留まりの課題から懐疑的な見方も出ていたが、改めて実用段階に乗せたことになる。

今回の再採用の背景には、製造技術の進展がある。4680電池は従来の2170電池より大型で、生産効率を高めるには乾式電極工程の確立が不可欠とされてきた。

従来の湿式製造では、材料を液体と混合して塗布した後、大規模な乾燥設備で乾かす必要がある。エネルギー消費と処理時間の増大の負担が大きく、乾式化できれば工程負荷を大幅に抑えられるとみられている。

Teslaはこれまで負極側では乾式電極工程を導入していた一方、難易度の高い正極側では湿式工程に依存していた。今回、同社バイスプレジデントのボン・エグルストン氏は、正極と負極の両方で乾式工程による生産に成功したと説明した。業界では、製造コストを最大50%削減できる可能性があるとの見方も出ている。

■ 背景にある関税リスクと通商環境の変化

CATLやLG Energy Solutionといった外部サプライヤーがある中で、Teslaが自社製4680電池を再び前面に押し出した背景には、複雑化する国際情勢がある。

米国のインフレ抑制法(IRA)や中国製電池に対する高関税政策は、Teslaにとって無視できない圧力となっている。中国製の材料や電池への依存度が高いと、補助金の適用が難しくなるためだ。

Teslaはこうした通商リスクに備え、サプライチェーンの自立性を高めようとしている。テキサスのギガファクトリーで生産した電池をModel Yに搭載することで、外部環境の変化に左右されにくい北米域内の生産体制を築く狙いがあるとみられる。

■ 乾式電極工程は全固体電池への布石にも

市場関係者が注目するのは、乾式電極工程の確立が4680電池にとどまらない点だ。電解質に固体材料を使う全固体電池は、材料特性の面から従来の湿式工程の適用が難しいとされる。

このため、Teslaが今回蓄積した乾式工程のノウハウは、Samsung SDIやトヨタが主導権を狙う全固体電池の量産競争でも優位に働く可能性がある。

乾式工程は電極をより厚く積層しやすく、理論上はエネルギー密度の向上にも有利とされる。Model Yの航続距離の延伸や、冬季性能の改善につながる可能性もある。

電池の内製化が進む中で、外部パートナーとの関係にも見直しが迫られそうだ。Teslaが材料加工から製造工程まで内製化を広げれば、既存サプライヤーは単純な供給にとどまらず、次世代技術の共同開発や新たな販路の確保といった対応を迫られる。

Model Yへの4680電池の再採用は、単なる部品の置き換えではない。製造原価の引き下げに加え、関税リスクの抑制、さらに次世代の全固体電池を見据えた技術基盤づくりまでを含む、Teslaの中長期戦略の一環といえる。

今後の焦点は、乾式工程で生産した4680電池搭載Model Yが実走行でどのような性能を示すかに移る。価格競争力と性能向上の両立を掲げるTeslaが、電池技術で優位性をさらに広げられるかが注目される。

同社は英語での投稿でも、乾式電極工程の量産適用について「リチウム電池の生産技術における大きなブレークスルーであり、極めて困難だった」と説明したうえで、エンジニアリング、製造、サプライチェーンの各チームと戦略的パートナーに謝意を示している。

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