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大規模言語モデル(LLM)にとどまらず、半導体設計、3Dモデリング、ロボット運用といった産業分野でAI活用が広がっている。製造現場の高度化や設計自動化への期待を背景に、大手企業の新機能投入に加え、投資や提携、スタートアップの資金調達も活発になってきた。

Dassault Systemesは、3DEXPERIENCEプラットフォーム上で専門的な設計業務を支援するAIベースの「Virtual Companions」を公開した。同社によると、同機能はLLMだけに依存せず、Industry World ModelsとAI、物理法則や材料科学に裏打ちされたマルチスケール・マルチディシプリンのモデリング/シミュレーションを組み合わせたもの。科学的な基盤と、長年蓄積してきた産業分野の知見を土台に構築したとしている。

3D空間AIを巡る投資も相次ぐ。スタンフォード大学教授のフェイフェイ・リー氏が率いるWorld Labsは、設計ソフト大手Autodeskから2億ドル規模の出資を受けた。両社は、World LabsのAIモデルとAutodeskのCADソフトを組み合わせ、建築、エンジニアリング、エンターテインメント分野で新たな活用事例を開発する計画だ。

動画生成AIのRunwayも、シリーズEで3億1500万ドルを調達し、次世代ワールドモデルの開発を加速する。Trillion Labsは、周辺環境の因果関係を学習し、将来の変化をシミュレーションするモバイル向けワールドモデル「gWorld-32B」を開発した。

フィジカルAIの実装を前面に打ち出す動きもある。Yeoui Systemは、3月4日から6日までソウルのCOEXで開催される「2026スマート工場・自動化産業展(AW 2026)」に出展し、無人化工場の実現に向けた「Physical AI」統合ソリューションを披露する。

半導体設計分野でもAI導入が加速している。Cadence Design Systemsは、半導体設計と検証向けのAI「スーパーエージェント」として「ChipStack」を発表した。

関連スタートアップの資金調達も目立つ。AIによるチップ設計自動化を手がけるRecursive Intelligenceは、創業4カ月で企業価値400億ドルの評価を受け、3億3500万ドルを調達した。ChipAgentsも、シリーズA1で5000万ドルを確保し、AIエージェントによってチップ設計プロセスを自動化するプラットフォームの開発を進める。

韓国では、科学技術情報通信部が進める「独自AIファウンデーションモデル」事業で、Motif Technologiesコンソーシアムが追加選定された。これにより、第2ラウンドに向けた4チームの競争が本格化した。あわせて、コンソーシアムの拡充やモデル高度化を狙う連携も広がっている。RealWorldとUpstageは同事業のコンソーシアムで協力し、ロボティクス向けファウンデーションモデルの実証を進める。Elice GroupはLG AI Researchコンソーシアムに加わり、K-EXAONEインフラを担当する。N.lightもMotifコンソーシアムに合流し、3Dデータ基盤を担う。

このほか、AIを自社開発または事業活用するテック企業の動きも続いた。Googleはバイブコーディングアプリ「Opal」に自動化ワークフロー生成機能を追加。Amazon Web Services(AWS)は、ソーシャルメディアのライブ配信市場を視野に、AI映像変換ツール「AWS Elemental Inference」を公開した。YouTubeも、対話型AI機能をスマートTV、ゲーム機、ストリーミングデバイスへ広げるテストを始めている。

Anthropicは「Claude for Work」を更新し、Google Drive、Gmail、DocuSign、FactSetなどと連携するプラグイン機能を追加した。企業は財務分析、エンジニアリング、人事管理などの用途に応じてプラグインを活用し、生産性向上につなげられるとしている。

OpenAIが2027年に初のハードウェア製品としてスマートスピーカーを投入するとの報道も出た。ChatGPT機能に加え、カメラと顔認識システムを搭載する見通しで、価格は200~300ドルと予想されている。

開発支援分野では、AIコーディングツールのCursorがAIコーディングエージェントのアップデートを発表した。エージェントが変更内容を自らテストし、作業内容を動画、ログ、スクリーンショットで記録できるという。ユーザーはWeb、Cursorのデスクトップアプリ、モバイル、Slack、Microsoft GitHub上でエージェントを実行できる。GitHubも、インテントベースのリポジトリソリューション「GitHub Agentic Workflows」を「GitHub Actions」上でテクニカルプレビューとして公開した。

周辺ソフトでもAI統合が進む。Veeam Softwareは、AIによるデータ活用に伴うリスク管理と、誤操作時のロールバックを可能にする「Agent Commander」を発売した。Madras Checkは協業ツール「flow」に「プロジェクト設計AIエージェント」を追加し、企画段階から関与するAI協業プラットフォームへの転換を進める。

AI音声分野では、ElevenLabsがキャラクターブランドおよびパブリシティ権IPライセンシング企業WITZと組み、声優ペ・ハンソン氏の音声をAIで学習・活用するPoC(概念実証)を実施する。

企業の事業戦略にもAIシフトが鮮明だ。2021年にクラウドマネージドサービス(MSP)事業へ参入したAhnLab Cloud Mateは、今年の黒字達成に自信を示した。収益性の確保が難しいとされるMSP市場で、AI転換(AX)需要を狙った自社製品戦略を成長の軸に据える。クラウドMSPで獲得した顧客に自社開発製品を提供し、利益拡大につなげる方針だ。Hancomは、異なるAI同士の連携を調整する「AIオーケストレーション」企業としての立ち位置を強める構想を示した。ITCEN CLOITは、Upstageと「生成AIモデルおよびエージェントプラットフォーム基盤の事業協力」に向けた業務提携(MOU)を締結。Waddleは、AI成長エージェント「Gentoo」を軸に、米サンフランシスコに子会社「Waddle Labs」を設立し、グローバル展開を本格化する。

旅行分野では、Yanoljaの研究開発子会社Yanolja Nextが、自社開発のAIソリューション3種を公開した。

一方で、AIソフトの販売環境に厳しさが出てきたとの見方もある。企業の慎重姿勢が強まり、導入判断までの期間が前年より長引いているとの声が、AIソフトウェア企業の間で広がっている。

米中のAI企業が新モデルを相次いで投入するなか、性能競争に加えて価格競争の行方にも関心が集まっている。こうしたなかAnthropicは、中国のAI企業が「Claude」を無断利用し、自社モデルの性能向上に使ったと主張した。DeepSeek、Moonshot AI、MiniMaxが2万4000件以上の偽アカウントを作成し、Claudeと1600万回超やり取りしたうえで、「蒸留(distillation)」手法によりモデルを模倣したというのがAnthropic側の説明だ。

AIの波はセキュリティ業界にも及び始めた。Anthropicがセキュリティ機能を投入すると、有力セキュリティ企業の株価が急落する場面もあった。ただし、AIが直ちにセキュリティ業界の中核的なビジネスモデルを置き換えるのは難しいとの見方も根強い。

AIセキュリティ・認証プラットフォーム企業RaonSecureは、「AI事業本部」の新設と専門人材の拡充、さらに「Agentic AI」基盤のセキュリティ自動化プラットフォームを年内に投入することを柱とする「AI中心の経営ロードマップ」を本格的に進める。

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