AhnLab Cloudmateが、自社開発のAX製品をテコに2026年の黒字化を目指す。クラウドのマネージドサービスプロバイダー(MSP)事業で獲得した顧客基盤に、生成AI向けセキュリティ製品やRAGソリューションを展開し、収益性改善につなげる考えだ。
同社は2021年にMSP事業へ参入した。売上拡大に比べて利益を確保しにくいとされるMSP市場で、黒字化に自信を示す背景には、自社製品を軸にした事業戦略がある。MSPの既存顧客に自社開発製品を提供し、採算性の高い事業構造へ転換を進める。
キム・ヒョンジュン代表とチェ・グァンホCTOはこのほど取材に応じ、2025年に立ち上げたAX製品事業で一定の成果が出始めていると説明した。海外製品の再販に比べ、自社製品は収益を確保しやすく、親会社AhnLabが持つ製品開発の知見も強みになるとしている。
同社のAX製品は、生成AI向けセキュリティ製品「Secure Bridge」と、RAGソリューション「ACMEi」の2本柱だ。
Secure Bridgeは、企業が生成AIを安全に利用できるよう支援する製品。重要情報の入出力検知、プロンプトインジェクション対策、プロンプト履歴の監視とポリシー制御、複数のLLMへの対応、エージェントレス方式などの機能を備える。クラウド、オンプレミスの両環境で利用できる。
一見すると既存のDLP(データ漏えい防止)製品に近いが、同社は設計思想が異なると説明する。チェCTOは、従来のDLPが内部から外部への情報流出防止を主眼としてきたのに対し、Secure BridgeはAIが生成した情報も含め、入出力の双方を監視しながらデータリスクを抑えられる点が特徴だとした。自然言語ベースで扱えることも差別化要素に挙げる。
AhnLab Cloudmateは、Secure Bridgeに自社開発のSLM(小規模言語モデル)も組み込んだ。AhnLabのSLMは、利用者の自然言語による問い合わせを理解し、漏えいリスクのあるデータの有無を探索するのに役立つという。Secure Bridgeは2025年6月に公開し、すでに複数の企業顧客を獲得した。操作性を重視した設計が受注につながったとみている。
キム・ヒョンジュン代表は、他社製品では利用者に過度な制約を課すケースが少なくなく、その場合はセキュリティ施策が現場に受け入れられにくくなると指摘した。こうした点を踏まえ、Secure Bridgeではセキュリティの可視性と透明性の向上にも力を入れたという。
同社はSecure Bridgeの次世代版も開発している。今後はAIエージェントの活用比重が高まるとみており、チェCTOは「Secure Bridgeの延長線上で、エージェント型AI環境のハブとなることを目指している」と述べた。AIエージェント間でやり取りされる情報を安全に検証できる仕組みを構想している。
一方のACMEiは、AIアシスタント構築を支援するプラットフォームだ。LLMを活用し、組織内データを検索・活用できるようにする。顧客が保有するデータと同社提供のデータを基に、AIアシスタントの構築を支援する。
機能面では、データ前処理の自動化による顧客向けデータレイク構成、基本テンプレートの提供による実装の簡素化、サブスクリプション型でのセキュリティ・運用の統合管理支援などを用意する。これらを通じて、ワンストップでの提供を打ち出す。
RAGをうたう製品が国内外で増える中、AhnLab Cloudmateは、ACMEiが個別SIではなく製品ベースで提供される点を差別化要因として位置付ける。キム・ヒョンジュン代表は、特化型テンプレートとソリューションを基盤に、顧客がより容易かつ効率的にAIを活用できるよう支援すると述べた。
現時点では、政府系研究機関などでの活用を想定し、報告書や発表資料の作成、研究資料の収集、論文間の比較といった業務支援に重点を置く。今後は研究機関にとどまらず、幅広い分野へ展開を広げる方針だ。チェCTOは、テンプレートを活用したドメイン特化型RAGの構築力を強みとして前面に打ち出す考えを示した。
業界では、RAGはコンセプト自体は有望でも、実運用では期待した効果が出にくいとの指摘がある。AhnLab Cloudmateは、その一因としてデータアクセス制御の難しさを挙げ、Secure BridgeとACMEiの組み合わせが解決策になり得るとみている。
チェCTOは、大量のデータを活用するほどRAGの性能向上が期待できる一方、アクセス権限の制御は容易ではないと説明した。その上で、必要な場面で重要データを安全に活用し、不要な場合は遮断できるアーキテクチャが必要だと指摘。Secure BridgeとACMEiを組み合わせることで、こうした課題の解消につなげられるとの見方を示した。
キム・ヒョンジュン代表は、自社AXソリューションと既存のMSP事業との相乗効果も強調した。MSP顧客の拡大は今後も重要であり、そこで獲得した顧客にAXソリューションを展開できるという。加えて、AIの活用によってMSP事業そのものの収益性改善も可能だとしている。
AhnLab Cloudmateは2026年について、AX関連案件がPoC段階を越え、実プロジェクトへ移行する動きが本格化すると見込む。キム・ヒョンジュン代表は「これからが本当の勝負だ」と述べ、RAG分野でもこれまでは検証目的の案件が多かったが、2026年はRAGやプライベートLLM関連の取り組みが一段と増えるとの見通しを示した。こうした流れを、自社AX製品のポジショニング強化につなげる考えだ。