米中のAI企業が新モデルの投入を加速する中、競争の焦点が性能だけでなく価格にも移りつつある。中国勢が性能面で米国勢に迫れば、今後は料金設定が競争力を大きく左右するとの見方が強まっている。
背景には、中国テック企業がAIモデルの性能で米国の競合との差を急速に縮めてきたことがある。大きな性能差が見えにくくなれば、ユーザー獲得の決め手は価格になりやすい。
価格面では、中国企業が優位に立つ可能性がある。Financial Times(FT)によると、中国のAIスタートアップZ.ai(ジープーAI)が提供するAIチャットボットの普及版プランは月額3ドル水準。OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeが月額20ドル前後であることを踏まえると、際立った低価格だ。
FTはこれを「価格戦争」と表現した。性能が似通ってくれば、AIの価格は遠からず、実用水準を満たす最も安いモデルが決める可能性が高いとみている。
もっとも、企業価値では依然として米国企業が中国勢を上回る。Z.aiは香港市場への上場後に株価が300%上昇し、企業価値も290億ドル規模に拡大したが、なお米国の主要企業には及ばない。米国勢は中国の競合に比べて売上基盤がはるかに大きく、既存企業との関係や資本へのアクセスでも優位を保っている。
一方で、技術面の差は縮小している。FTは、標準的な産業ベンチマークで、中国の主要LLM企業が推論、コーディング、一般的な知識労働といった分野で、米国の競合モデルと同等の水準に達していると報じた。
FTによれば、米国が対中AI半導体の輸出規制を続ける中でも、Z.aiはNVIDIAの最新GPUに及ばないHuaweiのAscend AIチップを基盤にモデルを学習してきた。それでも輸出規制は、中国企業による実用的なAIモデルの開発を阻むには至らなかったという。
半導体設計やソフトウェアの改善によって計算性能の不足を補える場合、その傾向はより鮮明になるとの指摘もある。
中国勢の新モデル投入も続く。Alibabaは新たなAIモデル「Qwen 3.5」を公開した。Qwen 3.5は複雑な作業を自律的にこなすよう設計されており、同社は複数のベンチマークで性能とコストの両面から米国の主要競合モデルを上回ったと説明している。
ByteDanceはAIベースの動画生成モデル「Seedance 2.0」を投入した。複数シーンの処理、音声とせりふの同期、多言語対応などを備え、ユーザーの間では「ゲームチェンジャー」との評価も出ているという。
中国企業が米国勢に匹敵するAIモデルを提供できるようになれば、価格の重みはさらに増す。
OpenAIは、開発者が主力モデル「GPT-5.2」を利用する際、入力100万トークン当たり1.75ドル、出力100万トークン当たり14ドルとしている。トークンはAIモデルが処理するテキストの単位で、一般には約4文字で1トークンとされる。
これに対し、Z.aiの「GLM-5」は入力100万トークン当たり0.58ドル、出力100万トークン当たり2.60ドル。とりわけ出力トークンの価格差が大きい。
FTは、こうしたZ.aiの価格競争力に注目し、ブランド認知や流通面で米国企業が優位な市場でも、今後はユーザー行動が変わる可能性があると伝えた。特に学生、独立系開発者、中小企業、コストに敏感なスタートアップへの影響が大きいとみている。
市場調査会社Counterpoint Researchによると、2030年までの生成AIに対する消費者支出は7000億ドル規模に達する見通しだ。これはエンタープライズ向けとクラウドインフラの売上を除いた数字という。
そのうえで、中国AI企業がこの市場の3分の1を確保し、その中でZ.aiが10%を占めれば、同社の規模は2030年までに230億ドルに達する可能性があるとしている。
Z.aiも価格を武器に、グローバル市場での事業拡大を狙う構えだ。高性能かつ低コストのモデルで勝負する戦略とみられる。
1月のBloomberg報道によると、Z.aiは中国国内でAPI価格を約85%引き下げたような激しい価格競争が、海外市場にも広がると見込んでいる。Bloombergは、こうした動きがOpenAIなど米国勢への挑戦になると伝えた。