企業向けAIアプリケーションを手がける各社の間で、販売現場の逆風が強まっている。企業がAI導入に慎重姿勢を強めており、契約までの意思決定に要する期間が昨年より長引いているためだ。
米Wall Street Journal(WSJ)によると、企業向けAIソフトウェアの営業では、導入可否の判断にこれまで以上に時間がかかるケースが増えている。昨年は、経営陣主導の方針や、競争に乗り遅れることへの不安(FOMO)、テクノロジー企業による積極的な販促が重なり、企業のAI投資意欲は強かった。
市場調査会社Gartnerは、昨年のソフトウェア支出が1兆2490億ドルに達したと推計している。一方、足元ではAIソフトの導入判断を厳しく見極める動きが広がっている。
WSJは、AIベースの顧客サービスを提供するスタートアップRegalの事例を紹介した。昨年は60〜90日で成約していた案件が、現在では契約完了まで通常180日程度を要するという。
RegalのCEO、アレックス・レビン氏は、「新技術をいち早く採用する企業が素早く動いていた時期もあったが、最近はそのスピードが目に見えて鈍っている」と述べた。Gartnerのバイスプレジデント、クレイグ・ロス氏も「誰もが以前より慎重になっている。現実を直視し始めたのだと思う」と語った。
こうした慎重姿勢の背景には、「まず導入ありき」の判断が見直されていることがある。WSJによれば、昨年AIの実証実験や本格導入を急いだ先行企業の中には、導入過程で想定外の壁に直面し、高い代償を払ったケースも少なくなかった。
AI導入効果の限定性を示す調査結果も出ている。全米経済研究所(NBER)が米国、英国、ドイツ、オーストラリアの企業に勤めるCEOやCFOら幹部6000人を対象に実施した調査では、AIによる生産性向上はなお限定的だった。
Fortuneによると、回答者の3分の2はAIを使っていると答えたものの、実際の利用時間は週1.5時間にとどまった。25%は業務でAIをまったく使っていないと回答。さらに、回答企業の90%は、直近3年間でAIが雇用や生産性に影響を与えなかったとしている。
もっとも、AIへの中長期的な期待はなお大きい。NBER調査では、経営陣は今後3年間でAIが生産性を1.4%押し上げ、生産量を0.8%増やすと見込んだ。当初は効果が出にくい一方、その後に伸びが加速する「Jカーブ」を描く可能性があるとの見方も示されている。
ただ、期待と現実の間には依然として隔たりがある。人材ソリューション企業ManpowerGroupが19カ国の約1万4000人を対象に実施した「2026グローバル人材指標」では、AIの定期利用率が2025年に13%上昇した一方、技術の有用性に対する信頼は18%低下したとFortuneは報じた。
この点についてロス氏は、「技術そのものが拒まれたというよりも、必要な安全策が整っていなかったり、自動化しようとする業務プロセスの実態を十分に理解できていなかったりしたことが大きい」と説明した。さらに、「特に重要なのは、財務面の成果を測るのが難しいと分かってきたことだ。測定できた成果も、非常に印象的といえるほどではなかった」と付け加えた。
Gartnerによると、今年の企業のソフトウェア支出は前年比14.7%増の約1兆4340億ドルに達する見通しだ。市場全体は拡大が続く一方で、購買行動はより厳格になっている。ロス氏は、「企業は潜在的な障害をより深く理解するようになり、評価期間が長くなるとともに、導入を検討するソリューションをこれまで以上に厳しく見極めるようになっている」と述べた。