写真はフィンバー・テイラー氏のXアカウントへの投稿より

AIコーディングの普及を受け、ソフトウェア企業、とりわけSaaS関連銘柄への売りが強まっている。市場では「AIがソフトウェア企業の価値を失わせる」との見方も広がるが、こうした悲観論は短絡的だとの反論も出ている。

その一人が、ShoGunでCEOとCTOを務めたフィンバー・テイラー氏だ。同氏はX(旧Twitter)への投稿で、AIを背景にした「ソフトウェア終末論」には論理の飛躍があると指摘した。

テイラー氏によると、足元の株安を招いた見方は単純だ。Claude CodeのようなAIコーディングツールによって開発が容易になれば、既存ソフトウェア企業の価値は大きく損なわれる、というものだ。極端に言えば、「週末でSalesforceのような製品を作れるなら、Salesforceは終わりだ」という議論である。

こうした見方の背景には、マット・シューマー氏の「Something Big Is Happening」のような発信がある。同稿は500万回を超える閲覧を集め、AIがあらゆる領域を変えつつあると訴えた。ただ、テイラー氏は「AIが変革的だ」という主張と、「だからあらゆるソフトウェア株を売るべきだ」という結論の間には、大きな飛躍があるとみる。

同氏は、市場が「AIがすべてを変える」というメッセージを「ソフトウェアにはもう価値がない」と受け取ってしまったと説明する。一方で、シューマー氏の主張の本質は、人々がAIツールを真剣に使うべきだという点にあるとした。その際に使われるのは、多くの場合、有料サブスクリプション型のSaaS製品だという。

テイラー氏は、仮に週末でRedditのようなサービスを作れたとしても、1日1億人が使う規模まで拡大し、モデレーターのエコシステムやコミュニティ文化、API連携、広告主との関係を築くのは、単にアプリを作ることとは全く別次元だと述べた。

同氏はまた、「Salesforceは単なるCRMの画面ではない」と強調する。そこには、10年かけて蓄積した顧客データ、数千件に及ぶAppExchange連携、同社のプラットフォーム上でキャリアを築いてきたエコシステム、そしてFortune 500企業から得た信頼があるという。AIコーディングを巡る楽観論は、見た目の機能と、企業システムとして実際に運用されることを混同していると指摘した。

上場SaaS企業の競争優位も明確だという。テイラー氏は、ネットワーク効果、高い乗り換えコスト、蓄積データ、ブランドへの信頼、規制対応のインフラを挙げた。Slackは導入企業が増えるほど価値が高まり、ERPの入れ替えは全社的な混乱を伴う。長年積み上げた固有データは簡単に複製できず、CISOは立ち上げから1時間しか経っていないような新興サイトではなく、CrowdStrikeを選ぶとした。さらに、SOC 2やHIPAAといったコンプライアンス対応は、週末の開発プロジェクトで模倣できるものではないと付け加えた。

その上で同氏は、AIは一方だけの武器ではないと述べる。競合が週末で自社機能を複製できるなら、自社も相手の機能を複製できるからだ。むしろ既存企業の方が、ユーザー基盤、販売チャネル、データ、ブランドを持つ分だけ有利だとした。

さらに、優れた着想そのもののハードルが下がったわけではないとも強調した。Slackがメールに勝ったのは、コーディングが容易だったからではなく、チームコミュニケーションのあり方を再構想したからだという。FigmaがAdobeに対抗できたのも、コードを速く書けたからではなく、協業のあり方を再定義したためだと説明した。

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