証券各社が年初からデジタル資産事業の拡大に動いている。一方で、Bithumbで発生したビットコインの大規模誤支給事故を受け、金融当局の規制対応を見極めようとする姿勢も強まっている。
背景にあるのは、デジタル資産基本法を巡る制度設計だ。取引所の大株主持分制限と、ウォン建てステーブルコインの発行主体を銀行が51%以上出資する法人に限る案が主要論点として浮上しており、証券会社のデジタル資産戦略にも影響を及ぼす可能性がある。
政界と証券業界によると、国会は1月15日、トークン証券の導入に向けた電子証券法と資本市場法の改正案を可決した。施行は2027年1月を予定している。
制度化のスケジュールが具体化したことで、証券業界では発行・流通インフラやカストディ、決済・清算の枠組みを見据えた提携の動きが広がっている。
DB Securitiesは2月5日、Solana Foundationと、トークン証券(STO)ベースのデジタル資本市場構築に向けた業務提携(MOU)を締結した。国内外のSTO基礎資産の共同発掘や、発行後の管理スキームの検討を進める方針だ。
Shinhan Investmentは、ブロックチェーンベースのトークン証券発行・流通インフラ連携プロジェクト「Project Pulse」に参加している。Solana Foundationとは、STOや実物資産連動型トークン(RWA)、カストディ、ステーブルコインを活用した決済基盤の研究などで協力範囲を広げてきた。
Hanwha Investment & Securitiesは、2026年の経営戦略会議で「RWAハブ」構想を打ち出し、デジタル資産分野でデータ・リサーチ面の協力や投資を進めている。
Mirae Asset Securitiesは、複数のブロックチェーン企業と進めてきたデジタル資産ウォレットのテストを終えたとされる。ステーブルコインやトークン化資産を含むインフラ構築の可能性が取り沙汰されるほか、主要デジタル資産取引所5社の一角であるKorbitの買収も進めている。
もっとも、2月6日にBithumbで発生した大規模なビットコイン誤支給事故を機に、業界の空気には変化も出始めている。
Bithumbではイベント景品の支給過程で、本来は2000ウォンと入力すべきところを、単位を誤って2000ビットコインと入力した。この結果、システム上で62万BTCが付与される事態となった。
この事故については、デジタル資産取引インフラの内部統制の不備が、提携金融機関にもレピュテーションリスクとして波及し得ることを示したとの見方が出ている。
Korea Investment & Securitiesは2025年12月24日、Bithumbとデジタル資産分野での戦略的協業に向けたMOUを締結していたが、事故後は慎重姿勢に転じた。
同社は「現時点で直ちに共同で進めている事業はなく、今後の協業日程もまだ具体化していない」と説明。Bithumb側の事故収束の状況を見守っているとした。
こうしたなか、デジタル資産基本法の論点として、取引所の大株主持分制限が証券業界の新たな負担要因として取り沙汰されている。想定される制限水準は15〜20%だ。
金融当局は、デジタル資産取引所について公共インフラとしての性格を持つとみており、株式市場の代替取引システム(ATS)と同様に、大株主の持ち分を15%前後に制限する規律を参考に、15〜20%の上限案を検討したとされる。
この規制が現実味を帯びれば、証券会社が取引所への出資や買収を通じてデジタル資産のバリューチェーンを内製化する構想には制約がかかる可能性がある。
取引所のガバナンスが制度上再編を迫られれば、長期提携の安定性が揺らぐ恐れもある。証券会社が大規模なシステム連携や共同サービスに踏み切る前のリスク評価が長引く可能性もある。
これに対し、取引所業界は、持ち分を人為的に分散させれば責任の所在が曖昧になり、かえって利用者保護に逆行しかねないとして反対している。
もう一つの争点が、ウォン建てステーブルコインを巡る「銀行51%ルール」だ。デジタル資産基本法では、ウォン建てステーブルコインの発行主体を、銀行が51%以上出資した法人に限る案が有力視されてきた。
ただ、現行の銀行法では、銀行が非金融会社の持ち分を15%までしか保有できないため、制度設計は容易ではないとの指摘もある。
金融当局は、ウォン建てステーブルコインの発行について、銀行主導のコンソーシアムが過半を握る枠組みを認める方向で検討したとされる。
この銀行51%ルールが導入された場合、証券業界への影響は事業機会そのものより、主導権や収益構造の面で大きくなる可能性があるとの見方が出ている。
STOやRWAの決済・清算レールとしてステーブルコインを活用できる余地は大きい。発行と統制の権限が銀行中心に設計されれば、証券会社はそのインフラを利用する立場にとどまる可能性があるためだ。
一方で、制度金融に属する銀行が過半を握る構造には、安定性と信頼性の面で利点もある。証券会社がデジタル資産関連の商品やプラットフォームを設計する際、規制の不確実性を一部和らげるとの見方もある。
金融投資業界の関係者は、大株主持分制限や銀行51%ルールについて「悪材料というより、戦略の大幅な修正を促す強いシグナルだ」と話す。「取引所を直接保有してバリューチェーンを内製化したり、決済インフラの主導権を握ったりする拡張型モデルは、規制面で難しくなっている」と指摘した。
そのうえで、「証券会社は無理に領域を広げるより、リスクが検証された取引所との協力水準を段階的に調整し、制度化が固まったSTOやRWAなど、本業の競争力を生かせる商品開発に集中する実利重視の戦略へと軸足を移す可能性が高い」との見通しを示した。