世界のセキュリティ市場で再編の動きが強まっている。足元では、AIを悪用した脅威への対応に加え、業務利用が広がるブラウザを防御の重点領域と位置付ける動きが目立つ。AI分野でも、大規模言語モデル(LLM)の次を見据え、現実世界を理解する「ワールドモデル」への投資と開発が活発化している。
クラウドセキュリティ大手のZscalerは、ブラウザセキュリティを手がけるSquareXを買収した。SquareXは、フィッシングやセッションハイジャックといったブラウザ起点の攻撃を防ぐ技術を持つ。URLレピュテーションやネットワーク検査に頼らず、ブラウザ内の挙動を監視して脅威をリアルタイムで検知するのが特徴だ。ChromeやEdgeなど既存ブラウザ上で動作する軽量拡張機能として提供し、専用のエンタープライズブラウザを必要としない。
Sophosは、AIを活用したガバナンス機能の強化策として、英国のセキュリティスタートアップArco Cyberを買収した。専任のセキュリティ責任者を置けない組織でも、CISO並みのリスク対応を実現できるよう支援する考えだ。
AIエージェント向けセキュリティのスタートアップKeycardは、認証管理を手がけるAnchor.devを買収する。Keycardのイアン・リビングストンCEOは、AIエージェントがより広い権限を持つようになるにつれ、セキュリティと信頼性の確保が重要になっていると説明し、今回の買収で関連技術を一段と強化するとした。
AI分野では、LLMの高度化にとどまらず、実世界の構造や変化を理解するワールドモデルへと競争の軸が広がっている。
Alibabaは、ロボットが周辺環境を理解し識別できるよう支援するAIモデル「RynnBrain」を公開した。自動運転車を含むロボット技術など、フィジカルAI領域での活用を見込む。
AI映像生成スタートアップのRunwayは、シリーズEラウンドで3億1500万ドル(約473億円)を調達した。TrillionLabsも、周辺環境の因果関係を学習し、将来の変化をシミュレーションするモバイル向けワールドモデル「gWorld-32B」を開発した。
企業によるAIの導入や自社開発を巡る動きも続いた。OpenAIは、ChatGPTの無料プランと低価格プラン「Go」に広告を導入する。体験への影響を抑えるため、広告はChatGPTの回答に影響せず、会話内容を広告主と共有しないと強調した。
OpenAIはあわせて、最新AIモデル「GPT-5.3 Codex」を投入した。コーディングAI分野で先行するAnthropicをどこまでけん制できるかが注目される。
Goldman SachsはAnthropicと連携し、AIエージェントの開発を進める。AnthropicのAIエンジニアとともに自動化システムを構築しており、会計や顧客審査でAIの活用を広げる戦略という。
ByteDanceは、AIベースの映像生成モデル「Seedance 2.0」を公開した。複数シーンの処理や音響・せりふの同期、多言語対応などの機能を備え、利用者の間では「ゲームチェンジャー」との反応も出ているという。
英国に本社を置くマーケティングデータ・アナリティクス企業Kantarの韓国法人、Kantar Koreaは、生成AI環境でブランドが消費者にどう認識され、選ばれるかを分析し、成長戦略を提示する「GEOサービス」の提供を始める。
Cadence Design Systemsは、半導体の設計・検証で活用できるAIの「スーパーエージェント」として「ChipStack」を発表した。
元GitHub CEOのトーマス・ドームケ氏は、開発ツールのスタートアップEntireを設立し、企業価値3億ドルで6000万ドル(約90億円)のシード資金を調達した。AIエージェントが生成したコードを効率的に管理するオープンソースツールを開発している。
IBMは、AI時代に対応した企業のデジタル製品設計を後押しするため、「デザイン・トゥ・コード」を手がけるスタートアップAnimaに出資した。コミュニティプラットフォームのRedditは、AIとアドテク分野で買収を積極化している。CFOのアンドリュー・ボレロ氏は、Redditの規模を生かせる企業を買収し、ユーザーベースの拡大につなげる考えを示した。RedditはAIベースの検索を新たな収益源と位置付け、従来型検索との統合を急いでいる。
Crypto.comの共同創業者兼CEOであるクリス・マザレク氏が設立した新たなAIプラットフォーム「AI.com(ai.com)」は、消費者向けの「自律型AIエージェント」サービスを開始する。数回のクリックで個人向けAIエージェントを作成できるよう支援するという。
WordPressは、AnthropicのAIチャットボット「Claude」と接続する新コネクターを公開した。AIライフログ企業HeyDiaryは、音声ベースの日記アプリ「HeyDiary」を正式リリースした。Canvaは、ChatGPTなどのAIアシスタントにブランド資産を直接連携する「Canva AI Connector」を発表した。DeepLは、リアルタイム音声認識と翻訳機能を提供する「DeepL Voice API」をリリースした。
AIが既存ソフト市場を脅かすとの見方に対し、Databricksのアリ・ゴドシCEOは、AIはSaaSを置き換えるのではなく、むしろ利用を押し上げているとの見方を示した。生成AIインターフェース「Genie」を通じて、データベース利用が急増しているという。Databricksは企業価値1340億ドルで50億ドル(約7500億円)を調達した。
LLMを軸とするAI市場では、AnthropicはこれまでOpenAI、Googleに続く3番手との見方が強かったが、その構図にも変化が出始めている。年初以降、テック業界での存在感を一段と高めているためだ。
転機になったのは、1月にAIツール「Claude Co-Work」を公開してからだとみられている。非開発者でも業務ツールを作成できる点が注目を集め、既存ソフト市場を脅かす可能性と重ねて受け止められたことで、AnthropicがOpenAIやGoogleを上回る話題の中心に浮上したとの見方も出ている。
Anthropicの影響はSaaS分野にとどまらない。新製品の投入が、バーティカルAIのエコシステムにも直接圧力をかけているとの分析もある。Anthropicのようなファウンデーションモデル開発企業が、事業領域ごとの専門性を深めながらプラットフォーム拡大と売上成長を狙うことで、バーティカルAIを強みとする企業も直接競争にさらされ始めたという指摘だ。
AIショッピングを狙うAI開発企業、大手流通、決済サービス各社の動きも速い。競合関係にある企業同士でも、必要に応じて協業する構図が広がっている。とりわけ、世界最大のEC企業Amazonへの対抗を優先し、個別事業では競合する企業とも連携を進める動きが目立っている。