MetaDxは、動物病院向けにペットの麻酔前リスクを予測するAIソリューション「VitalVET」を開発した。ペットの生体情報と臨床検査データを基に麻酔リスクを5段階で可視化するもので、同社は動物病院での実証と商用化の準備を進めている。
同社は、動物病院向けの診療・診断支援ソリューションを手がけるペット医療AI企業。獣医師が診療に専念できる環境の整備を目指し、臨床現場で扱われるデータフロー全体の構造化に取り組んでいる。
初のソリューションとしては、AIベースの犬向け腫瘍スクリーニング検査「CancerVET」を展開している。MetaDxによると、同製品を通じて診断分野で技術力を検証したほか、2025年に開催されたLondon Vet Showにも出展し、グローバル獣医療市場で注目企業の1社として紹介されたという。
VitalVETは同社の次の中核事業に位置付ける製品で、ペットの生体情報と臨床検査データを基に麻酔リスクを予測するAIソリューションだ。すでにMVP段階を終え、実際の動物病院での実証と商用化に向けた準備を進めている。
キム・ジヌク代表は、「VitalVETは、麻酔に関する意思決定と飼い主とのコミュニケーションを同時に改善する臨床ツールだ」と説明する。
◆高齢ペットの増加で麻酔安全性が重要課題に
VitalVET開発の背景について同社は、ペット医療市場で3つの構造変化が進んでいるとみる。高齢ペットの増加、飼い主の医療理解と要求水準の高まり、医療事故や紛争に伴う病院側の負担増だ。
こうした環境変化を受け、動物病院では麻酔の安全性確保が重要課題になっているという。キム代表は「人医療で術前の精密診断と準備が重要なのと同様に、ペット医療でも麻酔は手術時に飼い主が最も不安を感じる領域の1つだ。麻酔前リスクを正確に評価することが極めて重要になる」と話した。
一方で、既存の医療現場ではこの課題に十分対応できていないと指摘する。「多くのAIソリューションは診断精度の向上に重点を置いており、麻酔のように事故発生時の影響が大きい領域を対象としたAIソリューションはほとんどない」としている。
この空白を埋めるために開発したのがVitalVETだ。米国麻酔科学会の分類体系「ASA Grade」を基に、全血球計算(CBC)、血清化学検査、電解質、基本的な臨床情報をAIが総合的に分析し、麻酔前リスクを5段階で予測・表示する。
特徴は、実際の手術・麻酔症例5000件超を学習データに用いた点にある。MetaDxによると、これによりASA Gradeが抱える、獣医師の経験への依存や定性的判断の限界を補い、臨床データに基づく定量化と標準化につなげられるという。
外部評価も受けた。今回の技術開発を通じて、MetaDxは中小ベンチャー企業部と創業振興院の支援を受け、漢陽大学が主管する「2025年 創業中心大学」の創業企業に選定され、成果優秀企業との評価を受けたとしている。
キム代表はVitalVETの強みとして、(1)麻酔前検査データをリスク指標に即時変換できること、(2)リスクに応じた同意書を自動生成できること、(3)獣医師の説明負担を軽減し、飼い主の信頼向上につながること、(4)法的リスクに備えた記録を構造化できること――の4点を挙げた。「単なる予測AIではないことを示す要素だ」としている。
市場で関心を集めている理由については、臨床現場の実情を的確に捉えた点にあるとみる。獣医師でもあるキム代表は「差別化のポイントは、この動物が危険か安全かを示すだけではない。なぜ危険なのか、何を説明すべきかまで提示できる点にある」と述べた。
◆獣医師の経験を置き換えるのではなく、判断を支えるAI
MetaDxは、製品開発においてAIの適用可能性を重視している。キム代表は「最近、AIベースの腫瘍検査技術が注目されているのは、AIが単なる精度向上のツールを超え、医療データをつなぎ、解釈する役割へ進化しているためだ」と説明した。
同社のAIは、単一の検査結果だけを見るのではなく、血液データ、生体情報、臨床記録を結び付けて文脈を理解する方向へ高度化しているという。VitalVETもこうした考え方に基づいて開発したとしている。
キム代表は「AIは医療従事者の判断を代替するものではなく、その判断をより安全で一貫性のあるものにする技術だ。獣医師の経験を置き換える技術ではなく、獣医師の判断を支える技術と捉えてほしい」と語った。
◆自国内開発、グローバル基準で設計
MetaDxは、VitalVETのグローバル展開にも可能性があるとみている。同製品は自国内で開発した技術だが、開発初期から米国麻酔科学会のグローバルな臨床分類体系であるASA Gradeを基準に設計した。
同社によると、この基準は米国、欧州、アジアなど世界の動物病院で共通して用いられており、基準変換なしで導入しやすい点が特徴だという。短期的にはVitalVETの本格商用化と、自国内外の動物病院での実証拡大に注力する計画だ。
中長期的には、麻酔、腫瘍、慢性疾患、予後管理まで、ペットのライフサイクル全体をカバーするAIベースの臨床意思決定プラットフォームへ拡張する方針だ。キム代表は「それが当社の目標だ」としている。