写真=Jungwoomaruのチェ・ウィスン代表

人工知能(AI)やビッグデータの活用が広がる一方、個人情報保護規制は強化されている。こうした中、プライバシー保護型合成データ生成ソリューションを手掛けるJungwoomaruは、個人情報を使わずに意思決定に活用できるデータの提供を掲げ、金融・公共分野で事業拡大を進めている。

同社はこのほど、中小ベンチャー企業省の民間投資主導型技術創業支援プログラム「TIPS」に採択された。あわせてシード投資を確保し、中小ベンチャー企業省と創業振興院が支援し、Hanyang Universityが主管する「2025創業中心大学」プログラムでも優秀企業に選ばれた。

チェ・ウィスン代表は、「個人情報保護とデータ活用という相反する課題を同時に解決するため、Jungwoomaruを設立した」と説明する。同社は、実際の個人情報を使わず、意思決定に必要な現実の構造だけを安全に再現する技術を開発しているという。

◆「現実の構造設計」で合成データを再定義

同社が中核概念に据えるのが、「現実の構造設計(Reality Structure Engineering)」だ。合成データを単なる擬似データの生成と捉えるのではなく、現実そのものを複製するのではなく、現実を成り立たせる構造を設計するという考え方を採る。

金融機関や公共機関では、個人情報を外部に持ち出せないため、AI学習やデータ分析の活用が難しい場面が少なくない。これに対しJungwoomaruは、見た目や数値が似たデータを作るのではなく、業務ルールや相互関係、文脈が崩れないよう、現実が機能する構造そのものを再設計することで課題解決を図る。

チェ代表は、「従来の合成データが『どれだけ実データに似ているか』を重視してきたのに対し、Jungwoomaruは『このデータを使って実際に判断してよいか』を重視している」と話す。その上で、「当社は単に合成データを作る会社ではなく、データを通じて安全な意思決定を支える会社だ」と強調した。

◆「RealDataEcho」を支える3つの強み

同社の強みは大きく3つある。第1は、プライバシー保護型合成データソリューション「RealDataEcho」だ。実際の個人情報を一切使わずに、AIの学習や分析に利用できるデータを生成する。金融機関や公共機関のようにデータの外部持ち出しが難しい環境を想定し、顧客組織内で運用できるオンプレミス方式を基本構成としている。

第2は、合成データの品質検証と説明可能性への対応だ。単に「似て見えるデータ」を提示するのではなく、実データとの近さや、どのような意思決定に活用できるかを数値やレポートで示す。内部監査や規制当局への対応も視野に入れた設計だとしている。

第3は、ドメイン構造を反映したデータ生成技術だ。統計的な再現にとどまらず、業務ルールや階層構造、データ間の意味的な関係まで保持する。足元では、データ間の概念と関係を体系化するオンロジーに基づく設計を取り入れ、値だけでなく現実の構造や文脈も含めて再現する方向へ技術を拡張している。

チェ代表は、「オンロジーに基づく設計こそ、従来の合成データとの最大の違いだ」と説明する。意味や関係、構造まで保持することで、AIが単に予測するだけでなく、判断の根拠まで説明できる環境を整えられるとしている。

◆「似たデータ」ではなく「判断に使えるデータ」

チェ代表は、同社の差別化要因について、合成データ生成の精度そのものではなく、それを「意思決定インフラ」として再定義した点にあると位置付ける。使いやすさと信頼性の両立を目指す考えだ。

同氏は、「合成データ技術を持つ企業は多いが、実際の意思決定に使えるデータ作りまで踏み込む例は多くない」と指摘する。Jungwoomaruは、単に似ているデータではなく、「判断に使えるデータ」に注力していることを差別化ポイントに挙げた。

◆金融・公共から医療・ヘルスケアへ展開

中長期ビジョンについてチェ代表は、「実データを使わなくても、社会や産業の重要な意思決定が止まらない環境をつくりたい」と話す。現在は金融と公共を中心に事業を展開しているが、今後は医療、ヘルスケア、海外市場へと対象領域を広げる計画だ。機微性が高い一方で、判断の重要度も高い分野を重点領域とする。

技術面では、合成データにオンロジー、大規模言語モデル(LLM)、検索拡張生成(RAG)などを組み合わせ、説明可能AIの実装を進めているという。チェ代表は、合成データを単一のソリューションではなく、信頼できる意思決定を支える基盤インフラとして定着させたい考えを示し、「急成長よりも、長く使われる技術と基準をつくる会社を目指す」と述べた。

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