世界の企業で、サプライチェーン再編が一段と加速している。貿易戦争の長期化に景気後退懸念が重なり、各社はコスト削減とリスク分散の両立を急ぐ。関税への場当たり的な対応ではなく、中長期の地域分散戦略として再編を進める動きが鮮明になってきた。
The Conference Boardが世界の経営幹部1700人超を対象に実施した「C-Suite Outlook 2025」によると、米国CEOの71%が今後3〜5年以内にサプライチェーンの見直しを計画していると答えた。前年の54%から17ポイント上昇した。欧州CEOでも77%に達し、前年の61%から16ポイント伸びた。
再編の主な目的は、コスト削減と供給途絶リスクの抑制だ。回答したCEOの約8割がこの2点を主要な動機として挙げた。米国CEOはベンダーの多様化を最優先課題とする一方、欧州とアジアのCEOは、デジタル技術やAIを活用した成果管理をより重視しているという。
背景には、米中対立をはじめとする地政学リスクの高まりがある。従来もこうした対立は存在していたが、これまではリスク管理の議論にとどまるケースが多かった。足元では実際の投資判断や生産拠点の移転に結び付いている点が大きく異なる。The Conference Boardの調査でも、米国CEOの再編計画は1年で54%から71%へ急伸した。
米国、EU、中国を巡る対立が自社に与える影響が大きいと答えた割合は、アジアと欧州のCEOで約50%、米国CEOで34%だった。最大の地政学リスクとして貿易戦争の深刻化を挙げる回答も目立った。このほか、サイバー攻撃への懸念はCEOで25%、Cレベル幹部で36%、エネルギー価格の不安定さは35%に上った。
代表例の一つがAppleだ。ティム・クックCEOは決算発表で、2025年6月から米国で販売するiPhoneの大半をインドで生産すると説明した。iPad、Mac、Apple Watch、AirPodsについても、ほぼ全量をベトナムで生産していると明らかにした。一方で、中国は引き続き米国外向け製品の主要生産拠点として維持する方針も示した。全面的な中国依存の解消ではなく、地域分散を軸とする再編であることを強調した格好だ。
こうした再編は業績面にも表れている。Counterpoint Researchによると、Appleは世界のスマートフォン市場でシェア20%を獲得し、前年同期比10%の成長を記録した。2025年の世界スマートフォン出荷量全体の伸びは前年同期比2%増にとどまったが、Appleはプレミアム製品需要の拡大に加え、主要新興市場でも世界上位5ブランドの中で最も高い成長率を示したという。
国産志向の強い中国市場でも首位だった。2025年4〜6月期の中国スマートフォン市場でシェア22%を獲得し、出荷量は前年同期比28%増となった。iPhone 17シリーズへの強い需要と供給拡大が追い風になった。
「1カ所集中は危険」との認識は、韓国企業にも広がっている。Hyundai Motor Groupは、米ジョージア州の「メタプラント・アメリカ(HMGMA)」の稼働を当初計画より前倒しした。関税リスクが高まる中、米国内での生産体制の重要性が一段と増したためだ。
HMGMAは昨年5月に竣工し、Hyundai Motor Groupは米国で年100万台の生産体制を整えた。今後はさらに20万台を積み増し、120万台規模へ拡大する計画だ。S&P Global Ratingsは、Hyundaiの米国現地生産拡大がインフレ抑制法(IRA)を巡る不確実性を相殺し、市場シェアの防衛に寄与するとの見方を示した。
電池業界は事情こそ異なるものの、方向性は同じだ。LG Energy Solution、SK On、Samsung SDIの韓国電池大手3社は、米国の先端製造生産税額控除(AMPC)への依存度が高い。AMPCを除けば実質赤字の構造にあるとされる。一方、電気自動車需要の鈍化を受けてFordやGMが投資を延期しており、電池各社も工場の稼働時期を調整するなど、投資・生産計画の見直しを進めている。
業界では、貿易戦争と景気後退懸念がくすぶる中、サプライチェーンの競争力が企業の存続を左右するとの見方が強まっている。業界関係者は「サプライチェーン再編には巨額の初期投資が必要で、短期間で効果が表れにくい」とした上で、「鍵を握るのは継続性だ」と指摘した。