企業向けソフト各社が、AIエージェントを軸に事業転換を加速している。主要ベンダーは新製品を相次いで投入しているほか、関連技術の取り込みを狙ったM&Aにも動いており、AI時代の主導権争いが一段と激しくなってきた。
業界関係者によると、世界の有力エンタープライズソフト企業は足元で、業務を自律的に処理するAIエージェントの拡充を急いでいる。AI機能の強化を目的とした買収も活発化しているという。
クラウド型業務アプリケーションを手がけるServiceNowは、業務支援にとどまらず実際の作業を担うAIエージェントとして、「Autonomous Workforce」と「EmployeeWorks」を公開した。
同社が当面注力するのは、レベル1サービスデスクAIスペシャリスト、従業員サービスエージェント、セキュリティ運用アナリストの3分野。このうちレベル1サービスデスクAIスペシャリストは、2026年4〜6月期に先行投入する。
ServiceNowによると、サービスデスクAIスペシャリストは、VPN障害への対応やパスワード再設定、ソフトウェアのインストールといった一般的なIT関連業務を自律的に処理する。人間の担当者と同じようにシステムにアクセスし、問題の検知、分析、実行、文書化、ナレッジベースの更新までを一貫して担い、人手を介さずに完結できるとしている。
AIで処理できない案件は、レベル2またはレベル3の担当者に引き継ぐ。担当者が解決してナレッジベースを更新すれば、以後はAIが同種の問題を独力で処理できるようになるという。
EmployeeWorksは、2025年12月に買収したMoveworksの技術を基盤とする。対話型AI、企業内検索、ServiceNowのポータル、自律型ワークフローを組み合わせ、企業ユーザーの自然言語による指示を、ガバナンスを確保しながら一連の処理として実行する製品だ。
AIツールの導入が進むにつれ、業務ごとに複数のシステムをまたぐ運用が増えている。EmployeeWorksはユーザーの意図をくみ取り、複数システムにまたがる必要な作業を自動で実行する。Microsoft TeamsやSlack経由でも利用でき、既存の業務環境のまま活用できるとしている。
ServiceNowはAIエージェントの高度化に向け、買収にも動いている。直近では、AIエージェントの性能改善を支援するイスラエルのスタートアップ、Traceloopを買収した。
従来、AIエージェントの性能改善は、プロンプトを手作業で調整しながら反復的に検証する手法に頼るケースが多かった。Traceloopはこれを自動評価の仕組みに置き換え、開発者が問題を早期に見つけ、本番環境でモデルの挙動を追跡し、修正をより高い信頼性で展開できるよう支援するとしている。
AIベースの協業ツールを展開するNotionも、スケジュールやトリガーに応じて自動化ワークフローを動かす「Custom Agents」を投入した。
Notionによると、Custom Agentsは一度ワークフローを定義すれば、ユーザーがオンラインでなくても反復業務を自動処理する。Notion上で動作しながら、Slack、メール、カレンダーなど外部ツールとも連携し、蓄積されたドキュメントやデータベースの文脈を踏まえて精度の高い成果物を生成するという。
NotionのCEO、イバン・ジャオ氏は、アレックス・ヒース氏のポッドキャスト「Access」で、Custom Agentsを創業以来最大の変化だと位置付けた。Notionは独立したAIチャットアプリも準備しており、Notion全体の文脈を保持した専用チャットインターフェースとして、メールやカレンダー管理まで可能にする方針だとしている。
クラウド型プロジェクト管理ソフトを手がけるAirtableも、AIエージェント「Superagent」を公開した。Airtableによると、Superagentは単体のAIではなく、複数のAIが同時に連携して複雑な作業を処理する「マルチエージェント調整システム」と位置付けている。
例えば、ユーザーが欧州市場の拡大について尋ねると、Superagentが調査計画を立て、財務、競争環境、運営面の要素を分析したうえで総合レポートを生成する。単なるテキスト出力にとどまらず、対話型の市場分析やデータ可視化も含めた高度なAI協業を提供するとしている。
SuperagentはAirtable本体とは独立して提供し、料金は月額20〜200ドルの複数プランとする。Airtableは既存事業の枠を超えてAIエージェント領域へ拡大する方針のもと、OpenAI出身のデイビッド・アゾス氏をCTOに迎えたほか、AIエージェントのスタートアップであるDeepSkyも買収した。
SaaS企業はこれまで、APIを通じて顧客が異なるアプリケーション間でデータを移動できるようにしてきた。こうした仕組みは、競合企業の製品同士でも広く採用されてきた。
例えば、CRM市場で競合するSalesforceとHubSpotの顧客は、営業リードに関する記録を同期できた。こうしたデータ連携は、特定ベンダーへの囲い込みを避けやすくし、結果としてソフトウェア企業の顧客維持にもつながってきた。
もっとも、AIエージェントの普及に伴い、こうした方針が見直される兆しも出ている。
The Informationによると、HubSpotではAIエージェントの拡大を受け、長年維持してきたデータ共有の方針に変化が生じる可能性があるという。
HubSpotのCEO、ヤミニ・ランガン氏は決算説明会後のカンファレンスコールで、外部AIエージェントによるHubSpotデータの利用への対応を問われ、「利用状況を監視し、測定し、収益化する。HubSpotはオープンに設計されているが、誰でも情報を持ち出せる無料のデータパイプラインではない」と述べた。
The Informationは、この発言について、創業以来およそ20年続いてきた寛容なデータアクセス方針とは異なり、外部エージェントによるHubSpotデータの利用が今後は無料ではなくなる可能性を示唆するものだと伝えた。
HubSpotが実際に方針を転換すれば、収益面では追い風になる可能性がある半面、強い反発を招く恐れもある。The Informationによると、Salesforceは2025年5月、Gleanなど外部企業がSlackの顧客データをSalesforce製品に保存することを遮断し、批判を浴びた。その判断が事業に与えた影響は、なお明らかになっていないという。