米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、パンデミック後のリモート対応やAI導入を背景に、CIO(最高情報責任者)の役割が大きく変わっていると報じた。従来のIT基盤の管理にとどまらず、いまや全社的な活用方針を描く司令塔としての役割が重みを増している。
かつてCIOは、デジタルトランスフォーメーションの流れの中で、CTOやCDOに主役の座を譲る存在とみなされることもあった。スティーブ・ジョブズがフォーチュン500企業のCIOを皮肉った逸話もあり、形式的な肩書にとどまるという見方がつきまとっていた。
そうした評価は、パンデミックを機に変わり始めた。WSJは、防衛大手Lockheed MartinのCIO、マリア・ディマリ氏の発言をもとに、AI時代におけるCIOの役割の広がりを紹介している。ディマリ氏はLockheed Martinに35年間在籍し、2025年にCIOへ就任した。
ディマリ氏によれば、企業にAIを取り込む際の事実上の窓口はCIOだという。求められるのは単なる技術導入ではなく、組織全体でどう使いこなすかを描くことだ。CIOの役割は、ツールを提供する立場から、事業部門と並んで変革を設計する立場へ移っているという。
AIの実装が進むにつれ、CIOはITサービスの供給役ではなくなりつつある。各事業部門と連携し、何を目的にAIを使うのかという前提そのものを定義する役割を担い始めている。
Lockheed Martinでディマリ氏が進めるデジタルトランスフォーメーションは、3つの軸で構成される。1つ目は、人事、エンジニアリング、財務などバックオフィスシステムの統合。2つ目は、デジタルツインとシミュレーションを活用したモデルベースの企業運営への転換。3つ目がAIだ。
同氏はAIについて、「最初の2つを加速させるツールであり、自社に最も適したやり方を見いだす技術だ」と説明している。
具体例として挙げたのが部品管理だ。Lockheed Martinは戦闘機、ミサイル、ヘリコプター、宇宙船など幅広い製品を手掛けている。このため複数の製造ラインをまたいで、同じねじでも製品ごとに異なる名称で管理され、重複が生じていたという。
同社はAIを使い、重量、電圧、材質などの属性を基準に部品を再分類している。コスト削減に加え、サプライチェーンの混乱に対応するうえでも効果があるとしている。
社内向けには、会議の記録・要約や業務の進捗管理を支援するAIエージェントを自社開発し、展開した。セキュリティに配慮した設計とし、一般社員でも社内データを基に問い合わせできるようにしている。現在、ディマリ氏が率いるチームは約5000人規模で、Lockheed MartinのAIセンターとも緊密に連携しているという。
一方で同氏は、AIの限界についても明確な見方を示す。「AIが置き換えられるのは反復可能な業務であり、重要な意思決定は引き続き人が担うべきだ」と述べ、AIへの過度な期待を戒めた。
次の課題として掲げるのは、ベテラン社員が持つ暗黙知をAIに取り込み、組織全体で活用できるようにすることだ。
また、AI活用では「倫理」と「スピード」の両立が重要だと強調する。ディマリ氏は法務、人事、コミュニケーション部門と定例会議を開き、AIの責任性と安全性を点検する一方、各部門が直接使えるツールの開発も加速させている。
Lockheed MartinのAI利用量は、足元で月間350億トークンに達している。ディマリ氏は「ROIは時間をかけて高まっていく」としたうえで、「いま重視すべきなのは個々の用途より、組織構造と企業文化だ」と述べた。