人工知能(AI)の普及でデータセンターの新増設が加速するなか、英国、アイルランド、北欧では今後10年以内に熟練人材の大量退職が見込まれている。電力やハードウェアの確保に加え、建設や運用を支える人材の維持・継承が業界の新たな課題として浮上してきた。
米ITメディアのTechRadarが10月29日(現地時間)に報じたところによると、Onnecがデータセンター業界の上級意思決定者300人を対象に実施した調査で、英国、アイルランド、北欧では2031〜2036年に直接雇用の人材約6340人が退職する見通しとなった。これは同地域のデータセンター人材の18〜28%に相当する。
地域別にみると、退職比率は北欧が28%で最も高く、アイルランドが24.43%、英国が18.74%だった。退職による欠員を埋めるには、英国で4554人規模、アイルランドで813人、北欧で974人の補充が必要になると見込まれている。
問題は、データセンター業界が人材需要の拡大局面で大量退職を迎える点にある。生成AIの普及で建設・運用需要が増す一方、それを支える熟練人材の供給は細る可能性がある。人材の空白が現実のものとなれば、新設案件だけでなく、既存設備の安定運用にも影響が及びかねない。
Onnecのグローバルデータセンター統括を務めるマット・ソルター氏は、データセンターは電力だけで成り立つ施設ではなく、人の技術と経験に支えられる産業だと指摘する。業界の関心はGPUや電力容量に集まりがちだが、実際には設備を構築し、安定運用する人材が不可欠で、事業者はすでに必要な技術者の確保に苦慮しているという。同氏は、今後10年以内に人員のほぼ4分の1が退職する可能性があることも大きなリスクだと述べた。
とりわけ熟練エンジニアの離職は、単なる人数の減少にとどまらない。データセンターでは機器や配線、電力設備を精緻に管理する必要があり、障害発生時には現場での迅速な対応が求められる。長年の経験とトラブル対応のノウハウを持つ人材を短期間で置き換えるのは容易ではない。
ソルター氏は、データセンター環境に精通したエンジニアは、ラック背面での作業や深夜の緊急対応まで担う現場の中核だと説明した。退職のペースに後継者育成が追いつかなければ、計画された施設を迅速かつ安全に構築できる人材が不足するおそれがあると警鐘を鳴らしている。
このため業界では、新規採用の拡大に加え、熟練技術や現場経験を次世代へ引き継ぐ仕組みづくりが必要との見方が強まっている。ソルター氏は、人材育成は短期間では進まないとして、徒弟的な教育やメンタリング、明確なキャリア開発の仕組みへの投資を今から進めるべきだと強調した。既存の熟練エンジニアが現場を離れる前に、後任を直接育成し、経験を継承できる体制が欠かせないという。
データセンター業界は今、AI需要に対応する設備拡張と、人材の継承という2つの課題に同時に向き合っている。電力やGPUを確保できても、それを設置し安定運用する人材が不足すれば、投資や増設計画は滞りかねない。今後の競争力を左右するのは、インフラの規模だけでなく、熟練人材をどこまで確保し育成できるかになりそうだ。