通信各社が、AI時代の新たな課金単位である「トークン」を軸に事業機会を探っている。通信事業で培った課金・精算基盤をAI分野に展開し、新たな収益源につなげる狙いだ。
30日の業界関係者の話を総合すると、企業のAI導入が広がる中、複数のAIモデルを使い分けながら利用量やコストを一元管理したい需要が強まっている。これを受け、通信各社は既存の課金システムや法人顧客基盤、データセンターなどを生かしたAI事業の具体化を進めている。
KTはAIモデルの利用と費用管理をまとめて扱う「トークンファクトリー」を打ち出した。SK Telecomも「トークンゲートウェイ」を新たな事業領域として推進する。LG Uplusもトークン課金関連の事業を検討する一方、AI処理効率を高める基盤技術の確保を急いでいる。
◆通話・データに続く課金単位、AIでも存在感
トークンは、AIが質問や文書、コードなどを理解し、回答を生成する際に処理する基本単位を指す。通信サービスが通話時間やデータ使用量を基準に料金を設定してきたのに対し、AIサービスでは入出力に使われたトークン量が主な課金基準となる。
従量課金という点では通信事業と共通するが、料金体系はより複雑だ。AIモデルごとにトークン単価や処理性能が異なり、同じモデルでも入力と出力で単価が分かれる場合があるためだ。
とりわけ企業が複数のAIモデルを業務に取り入れる局面では、モデルごとの利用量や料金を把握し、予算を統制することが課題になっている。通信各社はこの需要に着目し、通信網の利用量を計測して請求してきた既存の仕組みを、AIのコスト管理へと広げようとしている。
通信各社はすでに、大規模な利用量を管理し、定期的に料金を請求する仕組みを持つ。認証や決済、顧客管理の機能も組み合わせ、AIサービスの導入から利用、請求までを一括で担う事業モデルの構築を目指す。
KTが30日に投入するトークンファクトリーは、国内外のAIモデルを単一プラットフォーム上で利用でき、モデル選定から利用量の確認、費用管理、決済までを一元化するサービスだ。KTはグローバルAIモデル流通プラットフォーム「OpenRouter」と連携し、500以上のAIモデルを扱う計画としている。
企業はAIモデルごとに個別契約や個別決済を行う必要がなく、1つのプラットフォーム上で複数のAIモデルを選んで利用できる。
SK Telecomは今月公表した「SKT成長ギア」戦略の中で、トークンゲートウェイをAI時代の新規事業として位置付けた。SK Telecomの関係者は「多様なAIモデルとインフラを顧客ニーズに合わせて接続し、より効率的なコストでAIを利用できるよう支援する事業だ」と説明した。
その上で、「どのAIモデルを使うか、どこまで業務を任せるか、どれだけ使い、費用がいくらかかるかまでを統合管理するのが目標だ」と述べた。
◆単なる接続からコスト最適化へ、インフラ連携も焦点
トークン関連事業の競争力は、顧客が求める性能を維持しつつ、トークン使用量と運用コストをどこまで抑えられるかにかかっている。
KTは自社開発の「オートモデルルーター」をトークンファクトリーの強みとして掲げる。業務の種類や難易度、要求品質、コストなどを分析し、最適なAIモデルを自動で選択する技術だ。
単純な業務には比較的低コストのモデルを使い、複雑な分析には高性能モデルを割り当てる。質問の意味を損なわずに不要な表現を削るプロンプト圧縮技術も組み合わせた。
KTは国内データセンターでAI推論サービスを直接提供するなど、トークン課金基盤とインフラ事業の連携も進める。海外AIモデルを仲介しながら、自社インフラ上でもAIモデルを稼働させ、データ主権やセキュリティを重視する法人需要の取り込みを狙う。
SK Telecomも、トークンゲートウェイの中核機能としてモデル選定とコスト最適化を挙げる。単なるモデル接続やコスト削減にとどまらず、AIが業務を遂行する一連のプロセス全体を管理する構想だ。
SK Telecomは、AIサービスで生じる需要を自社モデルやデータセンターにつなぎ、約2300万人の顧客基盤に加え、本人認証や決済、課金といった通信事業の仕組みを組み合わせる方針としている。
LG Uplusは、トークン処理効率を高める基盤技術の確保に注力している。最近では、同社研究陣が参加したAIトークン最適化に関する論文2本が、AI学術会議「NeurIPS 2026」のワークショップに採択された。
LG Uplusは小型言語モデル(sLM)にモデル軽量化と推論高速化技術を適用し、スマートフォン環境でのAI処理速度を従来方式比で約4.5倍に高め、バッテリー消費を約77%削減したとしている。
同社は今回確保した最適化技術を自社AIサービスに適用し、将来的にはサーバーGPU環境へ拡大する案も検討している。具体的な事業構想は固まっていないが、AI処理コストを引き下げる技術が今後の競争力につながるとの見方が出ている。
◆需要拡大でも収益化は別問題、差別化がカギ
KTがOpenRouterの統計を引用して公表した資料によると、同プラットフォームのAIトークン消費量は直近1年で約35倍に増えた。複雑な業務を自動で遂行するAIエージェントの普及が進めば、トークン需要はさらに拡大する見通しだ。
複数のAIモデルを呼び出し、その結果を検証する過程で、トークン使用量が増える可能性があるためだ。
もっとも、トークン消費量の増加がそのまま通信各社の収益拡大につながるわけではない。AI業界関係者は「外部AIモデルをつなぐ仲介型の事業では、元のモデル開発企業に支払う費用とマージン設計の両方を考える必要がある。インフラ運用にも相応のコストがかかる」と指摘した。
実際、KTも単純なトークン仲介より、自社インフラを活用した収益化に軸足を置く。イ・ジニョンKT AX事業本部長は27日の記者懇談会で、「単純な仲介手数料が主力モデルではない」とした上で、「KTデータセンターのGPUを活用し、自社でAI推論を処理する過程で生じるマージンが主要な収益モデルだ」と説明した。
グローバルAIモデル事業者やクラウド事業者との競争も課題だ。Amazon Web Services(AWS)も「Amazon Bedrock」を通じて多様なAIモデルを統合提供している。通信各社がモデル接続や料金請求にとどまる場合、既存事業者との差別化は難しくなる可能性がある。
通信業界関係者は「AI企業への転換を目指す通信各社が、まず新たな成長エンジンを打ち出した側面が強い。具体的なコスト削減効果を実証してこそ、顧客獲得につながる」と語った。
今後はセキュリティやデータ管理の能力も一段と重要になる見通しだ。企業の社内文書や顧客情報がAIモデルに渡る過程で、情報流出のリスクがあるためだ。
特に海外AIモデルと国内データセンターを併用する場合、データの処理場所やアクセス権限を明確に管理する仕組みが必要になるとの見方が業界内で強い。