テキサス大学オースティン校の研究チームが、リチウムをより速く、環境負荷を抑えて分離できる生体模倣型の分離膜技術を開発した。危険な化学物質や溶媒の使用を抑えながらリチウムを選択的に分離する手法で、実用化されればバッテリー材料のサプライチェーンにおける環境負荷の低減につながる可能性がある。
EV専門メディアのInsideEVが10月28日付で報じた。研究チームが開発したのは、生体細胞のイオン輸送メカニズムに着想を得た人工チャネル型の分離膜だ。リチウムイオンを選択的に通し、他の成分を遮る構造で、既存の抽出工程で必要となる複雑な分離プロセスの簡素化を目指す。
リチウムの供給源には、硬岩鉱石、塩水、使用済みバッテリーのリサイクル材などがある。ただ、こうした原料にはリチウム以外の成分も多く含まれるため、分離・精製工程が欠かせない。従来工程は時間とコストを要し、化学物質の使用や廃棄物の発生など、環境面の負荷も課題とされてきた。
研究チームはこの課題に対応するため、ナノメートルスケールの人工チャネルを設計し、分離膜に組み込んだ。チャネルの化学的特性を調整することで、リチウムイオンとその他の成分との相互作用の違いを利用し、リチウムのみを通過させて不要な物質を遮断する。危険な化学物質や溶媒への依存を抑えられる点も特徴だという。
テキサス大学オースティン校土木・建築・環境工学科のマニシュ・クマール教授は、リチウムが携帯電話や自動車、電力網など幅広い用途で使われている一方、環境負荷を抑えた抽出は依然として難しい課題だと説明した。研究チームは、従来手法よりも高速で、クリーンかつ運用しやすい工程の実現に重点を置いたとしている。
今回の研究は、リチウム以外の重要鉱物への応用可能性も示した。研究科学者のハレクリシュナ・ベヘラ氏は、イオンとチャネル入口の化学的相互作用を理解することで、膜設計の指針を得られた点を強調した。チャネルの化学特性を調整すれば、リチウムだけでなく他の鉱物イオンに選択的に応答する分離膜の開発も可能になるという。
もっとも、直ちに産業用途に適用できる段階ではない。実験室レベルで確認された分離性能を大規模工程でも維持できるかに加え、長期運用時の安定性や生産コストの検証が必要になる。実際の原料のような複雑な組成下でも、選択性と処理速度を確保できるかが実用化の焦点となる。
EVの普及とバッテリー需要の拡大を背景に、リチウムの供給網では採掘量の拡大だけでなく、精製効率の向上と環境負荷低減技術の重要性が高まっている。塩水や使用済みバッテリーのように多様な成分が混在する原料からリチウムを効率よく分離できれば、資源活用の効率向上にもつながる可能性がある。
今後、化学物質や溶媒の使用量をどこまで減らせるか、実験室で示した性能を産業規模で再現できるかが、この技術の成否を左右する。後続研究で経済性と安定性まで示せれば、リチウム抽出工程の環境負荷を引き下げる新たな選択肢となりそうだ。