英金融行動監視機構(FCA)などの規制当局が、人工知能(AI)の進展を踏まえ、金融機関に暗号方式の見直し準備を急ぐよう求めている。英Financial Times(FT)が28日報じた。FCAは、暗号リスクに対応するための移行計画を待たずに策定すべきだとしている。
背景には、AIの数学分野での能力向上がある。FTによると、オンラインバンキングやデータベースの保護を支える暗号技術について、一部の専門家の間では、AIの発達によって安全性が揺らぐ可能性への警戒が強まっている。
こうした懸念は、OpenAIがAIを使って長年未解決だった数学上の難問の一部を解き、その成果に関連して数百本の論文が公表されたことで、さらに高まったという。
豪州の数学者ジョディ・ウィリアムソン氏はFTに対し、「現代の暗号技術のかなりの部分は、“解くのが難しい”という前提に依存しているが、AIはその前提を根本から変えつつある」と指摘。「非常に大きな衝撃を想定すべきだ」と述べた。
広く利用されている暗号方式の一つは、大きな素数の積の因数分解が極めて難しいという性質を利用している。コンピュータにとって掛け算は容易でも、積から元の2つの素数を特定するのは難しいためだ。
FTによれば、数学者らは、AIが整数論やアルゴリズム設計の分野で能力を高めるほど、こうした暗号方式へのリスクも増すとみている。
これまで暗号を脅かす最大の要因は量子コンピュータと考えられてきたが、AIの進展によってその見方にも変化が生じている。金融業界関係者はFTに対し、より差し迫った脅威が量子コンピュータなのかAIなのかを見極める必要があると語った。
FCAは現在、大手金融機関50社を対象に、暗号リスクへの備えを点検する新たな監督ツールを試験運用している。来月には、監督下にある金融会社約3万5000社に対し、AIと量子コンピュータに関するリスク対応指針を示す予定だ。
FCAは「企業は待つのではなく、今すぐ準備を始めなければならない」としている。