Samsung Electronicsは、同社アプリストア「Galaxy Store」のマーケティングにAIエージェントを導入し、クリック率を105%増とする成果を上げた。Samsung Electronics MX事業部のイ・ヒジンパート長は、Microsoft KoreaがソウルのCOEXグランドボールルームで開いた「Industry Summit」で講演し、AI活用では自動化そのものよりも先に、明確な定量目標を置くことが重要だと強調した。
イ・ヒジン氏は、AIプロジェクトが期待した成果につながらない要因の1つとして、定量目標の不在を挙げた。
同氏は「『人並みにできる』という目標では基準になりにくい。人によって能力差が大きく、標準化もしづらい」と指摘。その上で、「Galaxy Storeではクリック率を従来比15%高めることを目標にAI活用を始めたが、実績は105%増となった」と説明した。
Galaxy Storeの主要な収益源はゲームだ。ユーザーがGalaxy Storeでゲーム内アイテムや有料商品を購入すると、Samsung Electronicsは手数料収入を得る。このため、ゲームの露出からクリック、インストール、決済に至る各段階の最適化が重要になる。
一方で、プロモーション対象となるゲームは増え続ける一方、運用人員やデータ分析のリソースには限界があった。そこでSamsung Electronicsは、データ分析からコンテンツ制作までを担う6つのAIエージェントの導入を進めた。2025年12月に準備を開始し、2026年4月には効果を確認できる段階に入ったという。AIの活用によって、担当者はゲームの訴求やクリック獲得施策に集中でき、想定を上回る結果につながったとしている。
顧客セグメント分析でも、AI活用が大きな効果をもたらした。イ・ヒジン氏は「顧客セグメントの情報を大規模言語モデル(LLM)に投入し、グループごとの特性整理とメッセージ作成を行わせたところ、ユーザーにより親しみやすく受け取られる文言を作れた」と述べた。
同氏は、AXで十分な効果が出ない背景として、定量目標の欠如に加え、LLMの限界、データ基盤、組織文化の課題も挙げた。
LLMは汎用データを基に学習しているため、分野ごとの専門家が出す成果物には及ばない面があるという。同氏は「AIはデータ分析のような業務では、専門家の85%程度の水準にある。コーディングやコンテンツ制作でも、専門家レベルに届かないケースが少なくない。商用化に向けては、最後の15〜20%を埋めることが大きな壁になる」と語った。
データ面では、AIに適した形での整備が欠かせないとした。「自動化がある程度進むと、それまで蓄積してきたデータ資産が十分ではないことに気付く」と説明する。Samsung ElectronicsはGalaxy Storeの運営を通じて8年以上にわたりデータを蓄積しており、2025年には新たなデータプラットフォームへ移行してデータを再整理した。AIエージェントがデータの意味を理解できるようデータカタログも適用し、部門ごとに異なる用語定義はオントロジーでつないだとしている。
組織文化については、イ・ヒジン氏がAXで最も重要なキーワードとして挙げた領域だ。「直感や経験に依存した意思決定プロセスを変えるには時間がかかる。目標を明確にし、データに基づく客観的な成果を積み上げてこそ、直感依存の限界を超えられる」と指摘した。
その上で、「企業がAI活用を進めるには、エージェントがあらゆるデータにアクセスし、その意味を理解できなければならない。重要な意思決定は機械学習とデータ分析を基に行い、テストで検証できる必要がある」と重ねて強調した。
Samsung Electronicsは、Galaxy Storeでのクリック率改善を踏まえ、今後は売上拡大にもAIを積極活用する方針だ。イ・ヒジン氏は「インストール予測モデルと購入転換モデルを追加で開発する計画だ」と述べた。