フィンテックは、もはや独立した投資テーマとしての役割を終えつつある――。フィンテック分野の有識者でインフルエンサーとしても知られるサイモン・テイラー氏は、X(旧Twitter)に「Fintech is Dead(フィンテックは死んだ)」と題して投稿し、こうした見方を示した。
同氏によれば、10年前にフィンテック企業の差別化要因だったモバイルアプリ、クラウド、APIといった仕組みは、いまや多くの金融機関にとって当たり前の機能になった。フィンテックが掲げてきた手法が業界全体に浸透した結果、フィンテックは「未来」ではなく、すでに実装済みの現実になったというのが同氏の認識だ。
こうした変化は投資動向にも表れている。ベンチャー投資案件全体に占めるフィンテックの比率は、2021年の14.5%から2025年には12.3%へ低下した。さらにフィンテック領域への投資の中でも、資金はAI企業に集中しており、同氏は「AI企業の比率は10%前後から70〜80%へ跳ね上がった」と説明した。
テイラー氏は、あらゆる金融商品は「意思決定(Decision)」「記録(Record)」「流通(Distribution)」の3要素に分解して捉えられるとする。1800年代には、支店長が貸出金利を決め、その内容を紙の帳簿に記し、顧客は支店に出向かなければならなかった。
いまは、その3要素が再び大きく変わり始めているという。意思決定の領域では、これまで人とスプレッドシートが担っていた判断を、AIモデルが置き換えつつあると指摘する。
具体例として同氏は、Revolutを挙げた。8000万人超の顧客取引データを基に独自の基盤モデル「PRAGMA」を開発し、不良信用リスクの検知能力は130%、不正検知は65%改善したという。中小企業向け融資を主力とする英国のAllicaについても、AIエージェントの活用により、導入初期の段階で融資審査の半分を平均12分で処理したと紹介した。
記録の領域でも変化が進む。企業内部に閉じていた帳簿は、ステーブルコインやトークン化資産といった価値を表すトークンへ移行しつつあるという。テイラー氏は「全員が同じ記録を見ながら、市場は24時間365日動く。Visaは米国のカード会社との決済を平日に限って行っていたが、いまはステーブルコインのUSDCを使い、週末を含めて週7日決済している。Robinhoodの株式トークンは120カ国超で取引されている」と述べた。
最後の要素である流通については、顧客自身ではなく、「財布」を持つAIエージェントが担い手になっていく点に注目すべきだとした。Robinhoodはエージェント向けのMCPサーバを公開しており、10万人のユーザーが上限付き口座の運用をすでにエージェントに委ねたという。
テイラー氏は「人は関心を持ってやって来るが、エージェントは任務を持ってやって来る」と語っている。
同氏はさらに、マネーとトークンの境界も曖昧になりつつあると強調し、その例としてStripeを挙げた。
Stripeは8月、AIモデルのルーティングを手がけるOpenRouterを70億ドル超で買収することで合意した。同日には、フィンテックスタートアップのRampも「Router.com」を投入した。
テイラー氏は、確率的に動くAIの処理単位に対し、確定した価値の単位で価格を付ける場が「ルーター」であり、「それは金融市場そのものだ」と説明した。
もっとも、既存の大手が直ちに地位を失うとは限らない。同氏は、預金、ライセンス、資本力を武器に、JPモルガンが最初の1兆ドル銀行になるとの見方を示した。一方で、これまでの「堀(Moat)」だけでは優位性を守れなくなっているとも指摘した。
テイラー氏は「第1世代のフィンテックは、銀行をスマートフォンの中に入れた。次の変化は、アプリの画面の裏側に残っていた審査、帳簿、業務処理の仕組みにまで及ぶ」と述べた。