ドル連動ステーブルコインの普及が、金融不安や通貨下落局面で銀行預金や現地通貨からの資金流出を加速させる可能性があるとの見方が出ている。国境をまたぐ送金を低コストかつ迅速に行える利便性が、局面次第では金融システムの流動性を圧迫する要因にもなり得るためだ。
ブロックチェーンメディアのCointelegraphによると、ステーブルコインは従来の銀行システムと異なり、24時間365日の取引・決済が可能だ。利用者は現地通貨からドル連動のデジタル資産へ、ほぼ即時に資金を移すことができる。
焦点となるのは、資金移動のスピード差だ。銀行経由の送金は営業時間や中継銀行、決済・清算手続きに左右される。一方、ステーブルコインはブロックチェーン上でほぼ常時移転できる。このため、市場の混乱や現地通貨の急落時には、資金流出の速度を一段と早める可能性がある。
欧州中央銀行(ECB)はこれを、デジタルマネーと銀行システムの間に生じる流動性ミスマッチの問題として捉えている。ステーブルコインは24時間体制で償還に応じられる一方、裏付けとなる準備資産は既存の金融システムの決済スケジュールに沿って動くためだ。
償還請求が短時間に集中すれば、準備資産の換金と実際の資金需要の間に時間差が生じる恐れがある。
実際の例もある。2023年3月にSilicon Valley Bank(SVB)が破綻した際、USD Coin(USDC)の準備金のうち33億ドル(約4950億円)がSVBに預けられていたことが判明し、USDCのドル連動は一時揺らいだ。銀行の流動性危機が、わずか1日でステーブルコイン市場の不安に波及した事例といえる。当時は、預金者保護に向けて当局が介入した。
国際決済銀行(BIS)も、ステーブルコインの拡大が各国の金融市場に及ぼす影響を注視している。BISは今年7月、130の経済圏を分析した結果、ステーブルコインへの資金フローと従来型の外貨預金が、通貨圧力や銀行危機の局面でそろって増える傾向を確認したと発表した。
特に、ステーブルコインへの資金移動は資本規制の影響を比較的受けにくいことが示された。現地通貨が急落した際、利用者が銀行口座の資金をドル連動ステーブルコインに振り替え、価値下落を回避しようとする可能性があるという。
Sphere LabsとSilicon Valley Bankの報告書は、アルゼンチン、ナイジェリア、トルコをその例として示した。Sphere Labsの最高経営責任者(CEO)、アーノルド・リー氏は、ステーブルコイン拡大の本質はドル需要にあると説明する。
従来の銀行システムを使いにくい人々が、相対的に価値の安定したドルにアクセスする手段としてステーブルコインを選んでいるという。
報告書によると、アルゼンチンではペソで購入された暗号資産の94%をステーブルコインが占めた。トルコでは1年間で約380億ドル(約5兆7000億円)相当のリラがステーブルコインに転換されたという。
ステーブルコイン需要の拡大は、現地通貨市場にも影響を及ぼし得る。BISが3月に公表した別の研究では、2021年から2025年までの27の法定通貨と4つの主要なドル連動ステーブルコインを分析した結果、需要増が現地通貨に下押し圧力をかけ、外国為替スワップを通じたドル調達コストを押し上げる可能性があるとした。
高インフレ国では、住民が現地通貨からステーブルコインへ素早く資金を移すことで、金融政策の波及効果が弱まり、銀行預金基盤が縮小する恐れもある。中央銀行が対応する前に、市場で資金移動が先行する可能性があるためだ。
欧州では規制を巡る議論も続いている。欧州連合(EU)のMiCA規則は現在、ステーブルコイン発行体に対し、準備金の少なくとも30%を銀行預金で保有するよう求めている。重要な資産連動トークンについては、最大60%まで銀行預金での保有を求める。
これに対しECBの枠組みでは、こうした固定比率ではなく、準備資産をどれだけ早く現金化できるかを基準に規制を見直す案が示された。償還が集中した際に、商業銀行から短時間で流動性が流出する事態を抑える狙いがある。
もっとも、ステーブルコインが直ちに銀行を代替するわけではないとの見方もある。Block出身のステーブルコイン決済企業Meldの共同創業者、パンカジ・ベンガニ氏は、企業顧客によるステーブルコインの利用は、投資というより決済や清算に近いと説明した。
同氏によると、企業利用者は取引の清算直後に、その大半を再び法定通貨へ戻す。長期保有を目的とするのではなく、既存の国際決済網であるSWIFTに代わる清算手段として活用しているという。
利用企業は、輸出入企業のほか、技術企業、電子商取引企業、決済事業者、フィンテック企業など多岐にわたる。主な用途は越境商取引の代金決済で、取引先への支払いや請求書決済がそれに続く。
このため、ステーブルコインは銀行の役割そのものを消すというより、資金が移動する経路を変える存在とみる向きもある。準備資産は依然として銀行預金や米国債などに支えられており、企業や消費者も最終的には法定通貨を必要とするためだ。
結局のところ、ステーブルコイン拡大が金融市場に突きつける論点は、銀行が消えるかどうかではない。資金移動の速度と経路がどう変わるかだ。迅速で低コストな決済は金融の効率性を高める半面、金融不安時には資金流出と流動性圧力を一段と強める可能性がある。