AMDの未公表チップ「Gainsborough」が、Valveの次世代携帯型ゲーム機「Steam Deck 2」向けではないかとの観測を呼んでいる。AMDのドライバーから新たなコード名が確認され、半カスタム設計や消費電力、パッケージ条件にSteam Deck向けを想起させる共通点があるためだ。ただ、現時点の情報だけで顧客がValveだと断定するのは難しい。
米The Vergeは10月1日(現地時間)、AMDのドライバーから、これまで知られていなかった「AMD Gainsborough」というコード名が見つかったと報じた。
注目を集めている理由の1つは、コード名の付け方にある。初代Steam Deckに採用されたAMD製チップは「Aerith」のコード名で知られるが、Gainsboroughも同様に「ファイナルファンタジーVII」のキャラクター名に由来するとみられている。
さらに、GainsboroughがTSMCのN3Pプロセスを採用する半カスタムチップとみられている点も、Steam Deck 2向けとの見方を後押ししている。
半カスタムチップは、特定の顧客や製品要件に合わせて設計されるケースが多い。Gainsboroughが携帯型ゲーム機向けに開発されているのであれば、Valveの次世代機と結び付ける見方が出るのも自然だ。
物流記録からは、AMDがGainsboroughの検証向けとみられるテスト装置を輸送した形跡も確認された。特定顧客向けの評価が進んでいる可能性を示す材料ではあるが、それだけで顧客がValveだとまでは言えない。
パッケージサイズも注目点だ。輸出入記録によると、Gainsboroughは25mm×25mmのパッケージを採用するとされる。
流出情報ベースでは、AMDの次世代携帯型デバイス向けチップ「Ryzen Z3」「Ryzen Z3 Extreme」も、同じ25mm×25mmのパッケージが示されている。
一部資料では、Ryzen Z3の目標消費電力は15W前後とされる。これはSteam DeckおよびSteam Deck OLEDの消費電力レンジと重なる。
消費電力効率が重視される携帯型ゲーム機では、こうした条件の一致がSteam Deck 2向けとの観測材料になっている。
もっとも、GainsboroughをSteam Deck 2専用チップとみるには慎重さも必要だ。半カスタムチップであっても、特定製品を想定して開発された後、最終的には採用に至らない例があるためだ。
既存のSteam Deck向け半カスタムチップについても、当初からValveのゲーム機専用に設計されたわけではないとの指摘がある。AMDが別の機器を念頭に開発したチップが、後にSteam Deckへ転用された可能性があるという見方だ。
コード名だけでは決め手にならない。「Gainsborough」はValveが付けた名称ではなく、AMD側が定めたものとされる。Valve関係者は過去の訪問時、ファイナルファンタジー由来のコード名はValveが特に求めたものではない、という趣旨の説明をしたという。
類似の例もある。MicrosoftとASUSが投入した「Xbox Ally」ベースモデルには「Ryzen Z2 A」が搭載されたが、このチップは「Aerith Plus」に分類されることで知られる。Steam Deckを連想させるコード名が、他社の携帯型ゲーム機にも使われ得ることを示す事例といえる。
パッケージサイズについても、決定的な手掛かりとは言い切れない。Gainsboroughの25mm×25mmは相対的には小型の部類だが、Steam Deckの基準でみれば、むしろ大きめとされる。
既存のSteam Deck向け「Aerith」は、周辺部を含めても約19mm×19mmとされる。Gainsboroughが高い電力効率を実現する可能性はあるものの、サイズだけでSteam Deck 2向けと判断するのは難しい。
そもそも、GainsboroughがValveの求めるSteam Deck 2の条件を満たすかどうかも分かっていない。Valveは次世代Steam Deckについて、単なる性能向上ではなく、性能と電力効率の両面で世代をまたぐ大幅な進化が必要だとの考えを示してきた。
Valveは最近まで、Steam Deck 2の投入時期や製品形態をなお検討中だとの姿勢を維持している。メモリ供給の問題などでハードウェア業界全体の開発スケジュールが影響を受けていることを踏まえると、新チップの存在が確認されたからといって、発売が近いとみるのは早計だ。
Gainsboroughは、Steam Deck 2向けの可能性を示す興味深い材料ではあるが、現時点では有力候補の1つにとどまる。コード名、半カスタム設計、パッケージサイズ、消費電力条件に一致点はある一方、顧客がValveかどうか、またValveが求める性能と電力効率の進化を満たせるかは確認されていない。
今後、AMDがGainsboroughの用途や仕様を明らかにするか、あるいはValveの次世代機開発を裏付ける追加情報が出てくれば、搭載の可能性はより具体的に見えてきそうだ。