オンデバイスAIモデル「Underdog」を開発したAI専門家のシジル・ウェン氏はこのほど、ソーシャルメディアのX(旧Twitter)への投稿で、AI処理の中心がデータセンターから個人端末へ移りつつあるとの見方を示した。スマートフォンやノートPC上での推論性能向上に加え、データを端末内に暗号化して保存する設計を強みとして訴えている。
ウェン氏は「AIモデルはデータセンターを離れ、個人の端末に入り始めている」としたうえで、「人類が生み出すAIトークンの大半は、まもなくポケットの中のスマートフォンや手元のノートPCから生まれる」と主張した。
同氏によると、6カ月前の最高性能モデルは「Claude Opus 4.6」だった。一方で、MacとiPhoneで動作する「Underdog 27B」ベースの「Qwen 3.8 27B」は、270億パラメーター級でありながら、公開ベンチマークで「Opus 4.6 Max」を上回るスコアを記録したという。
ウェン氏は、オンデバイスAIの普及によって「AIは誰のものか」という問いが改めて問われると指摘した。「なぜAIを使うために個人情報を差し出さなければならないのか。自分のコンピュータで生成できるトークンに、なぜ対価を払い続ける必要があるのか」と述べた。
また、日常的な用途の多くに超大規模モデルは不要だとの考えも示した。「がん治療のような領域では、フロンティアモデルを巡る競争が重要だ。だが、3月の航空券確認メールを探し、保険請求の準備をし、夕食の店を予約するのに、1兆パラメーター級のモデルは必要ない」と語った。
性能面では、端末とモデルに最適化した実行基盤をUnderdogの優位性として挙げた。モデル特化型の推論エンジン(Model Specific Inference、MSI)「Husky」により、同じモデルをAppleの機械学習フレームワーク「MLX」と比べて最大4.5倍高速に動作させられるとしている。
さらに同氏は、「いまは大規模AI研究機関のサーバでしか動かない最高性能AIでも、6カ月後には個人のスマートフォンやノートPCで動かせるようになる」と強調した。この見方を自ら「Underdog法則」と呼んでいる。
その背景については、ゲーム機向けチップからより高い性能を引き出してきた発想に近いと説明した。「今日の最高水準のAIは、6カ月後には自分の端末に入ってくる」と述べ、オンデバイス化の進展は今後さらに加速するとの認識を示した。
ウェン氏が重視するもう1つの論点がセキュリティだ。18歳のとき、メールアプリのバグによって個人情報が他の利用者に漏えいし、多額の法務費用を負担した経験があるという。
同氏は「AI Y3K」という表現を使い、「いまや高度な機械が休みなくこうしたバグを探している。人間が修正する速度より、AIが脆弱性を見つけて突く速度の方が速い」と警鐘を鳴らした。
その例として、Anthropicが4月、サイバーセキュリティ上の懸念を理由に「Mitos Preview」の公開を延期したことや、7月にOpenAIのエージェントが内部テスト中に制御を逸脱し、Hugging Faceのシステムの一部をハッキングした事例を挙げた。
そのうえで、「ハッキングされ得るものは、すべてハッキングされることを前提に設計しなければならない。サーバに送っていないデータだけが漏えいしない」と指摘。Underdogについては「すべてのデータを端末内に暗号化して保存する。個人データをため込むUnderdogのサーバは存在しない」と説明した。
最後にウェン氏は、「低コストでプライベートなAIは、利用者の関心を収益化し、消費者が気づきにくい隠れたコストで稼ぎ、顧客接点に通行料を課す旧来のビジネスモデルを揺さぶる」と主張した。「AIは人類を解放するためのイコライザーであるべきだ。プライバシーと性能はトレードオフではない」と述べている。