写真=トレバー・トレイナー氏(Tools For Humanity 最高事業責任者)

Tools For Humanity(TFH)は10月1日、虹彩認証を用いたIDプロジェクト「World」の中核機能である「World ID」について、AI時代の本人証明手段として有効性を訴えた。Captchaや本人確認(KYC)だけでは、急増するボットへの対応に限界があるとの見方を示している。

同社で最高事業責任者(CBO)を務めるトレバー・トレイナー氏は、記者団とのインタビューで、「AI時代には、実在する人間であることを証明する重要性が高まっている。虹彩認証に基づくWorld IDは、既存のCaptchaやKYCの弱点を補う技術になり得る」と述べた。

Worldは、サム・アルトマン氏が共同創業者として参画するプロジェクト。TFHは数年にわたり数億ドル規模を投じ、NVIDIA製チップとAIを搭載した認証端末「Orb」を開発してきた。Orbでは虹彩パターンを匿名で登録し、個人ごとに固有のWorld IDを発行する。

虹彩認証を終えたユーザーにはWorld IDが付与され、報酬としてWorldcoinも受け取れる。ユーザーはApple App StoreやGoogle Playから入手できる「World App」を通じて、World IDやWorldcoinを利用できる。

World Appの主な機能は、暗号資産ウォレットとしての機能と、虹彩認証で取得したWorld IDを使うIDサービスの2つだ。TFHによると、World IDはWorldcoinとは切り離して利用でき、対応する各種サービスで使える。複数のサービスにGoogleやFacebookのIDでログインする感覚に近いとしている。

トレイナー氏は、ボットの増加が深刻化していると指摘する。「最近のレポートでは、Web上の活動の半分以上をボットが占めるという。Xのコメントや商品レビューにとどまらず、金融や銀行のように高い安全性が求められる分野にも広がっている。ボットが運転免許証まで再現できるようになり、企業や金融機関、政府が使ってきたCaptchaや本人確認手続きだけでは対応しにくくなっている」と語った。

TFHは現在、企業向けサービスと一般消費者向けサービスの双方で、World IDのエコシステム拡大を進めている。上半期にはZoom、DocuSign、Tinder、Shopifyなどと協業し、IDセキュリティを強みとするOktaとも提携した。

トレイナー氏は「Zoomとの協業には、ビデオ会議中のディープフェイク対策も含まれる」と説明。「この技術は米国の複数の金融会社でもテストされている」と明らかにした。

企業向けでは、「3段階認証」を差別化要因として打ち出す。トレイナー氏は「2段階認証では運転免許証のような有効な証明書の確認にとどまるが、3段階認証では、その証明書を持つ当人が実在する本人かどうかまで確認する」と説明した。

さらに、「企業は、ハッキングによってデータが流出した際の責任を負うため、個人識別情報の保管を避ける傾向がある。一方で、本人確認の必要性はこれまで以上に高まっている。World IDが提供する匿名の証明書は、こうした課題の解決につながる。個人情報を保管する負担の軽減にもなる」と述べた。

人ではないボットによるトラフィックが急増する中、人によるアクセスかボットによるものかを見分ける技術は、テック業界の重要テーマになっている。AIを使ってボットを判定する技術への投資も拡大している。

代表的な手法としては、Webサイト利用中の行動を分析し、カーソルの動きの速度や自然さ、スクロールや入力のパターン、IPアドレスの不審な履歴、利用端末などをスコア化して、人かボットかを見極める方法がある。

これに対しトレイナー氏は、「行動パターン分析のような方式は、大規模環境では十分な強度を持ちにくい。ボットは直線的な動きではなく、より自然な挙動を再現するよう進化している。別の手法を使ったとしても、常にボットを先回りし続けなければならず、負担は非常に大きい」と指摘した。

同氏によると、World Appのダウンロード数は4000万件に迫る。このうち1800万人がOrbによる虹彩認証を完了した。World IDの利用回数は5億回近くに達しているという。

トレイナー氏は「当初は、潜在的なパートナーに技術を説明することに多くの時間を費やしていた。だが今は、パートナー側から先に解決策を求めてくるようになった。各社がWorld IDを選択肢として提供し、ユーザーが増えれば、エコシステムはさらに拡大する」との見通しを示した。

TFHは現在、Worldのエコシステム拡大に向けて主要国の開拓に注力している。Orbの製造コストが高いことから、米国、日本、ドイツなどに加え、韓国市場も重点地域に位置付ける。トレイナー氏は「Tinderとの協業は日本で始まり、その後米国に広がった。DocuSignやZoomとの協業も、米国内での普及が一定水準に達したことで実現した」と述べた。

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