企業によるAI導入が急速に広がる一方、投資対効果(ROI)の改善にはツールの導入だけでは不十分で、人材育成や業務再設計、データ整備まで含めた一体的な取り組みが欠かせない――。こうした見方を、Tungsten Automationの最高AI責任者(CAIO)アダム・フィールド氏が示した。
米ITメディアTechRadarによると、フィールド氏は29日(現地時間)の寄稿で、「AI投資の成果は技術そのものではなく、それを使いこなす人材と業務の設計に左右される」と強調した。McKinseyの調査では、世界の組織の88%が少なくとも一つの業務機能でAIを活用している一方、収益拡大に結び付けている企業はなお限られるという。
課題の1つが人材だ。BusinessLDNがロンドンの企業リーダー2000人超を対象に実施した調査では、現在の従業員が組織の求めるスキルを備えていると答えたのは半数にとどまった。AI時代に必要なのはITスキルだけではない。デジタルリテラシーに加え、AIの出力を批判的に見極める力や、既存の業務フローにAIを組み込む力が重要になるとしている。
フィールド氏は、採用情報や職務記述書の見直しも必要だと指摘した。実際に利用するAIツールと、求められる判断力や分析力を具体的に明記し、単にツールを操作できる人材ではなく、生産性向上につなげられる人材を確保すべきだとした。従業員がさまざまなプロンプトや活用方法を試せる環境づくりも重要だという。
データ環境の整備も大きな論点だ。企業内の情報の多くは、メールやPDF、各種文書といった非構造化データとして埋もれており、AIが組織全体の文脈を把握しにくい。こうした「ダークデータ」を構造化しなければ、高性能なAIモデルを導入しても不完全な情報に基づく回答にとどまり、実証実験から本番運用へ移行できない可能性があるとした。
そのうえでフィールド氏は、AIによって反復作業や文書化業務の負担は軽減できる一方、判断、創造性、ストーリーテリング、変革管理といった領域では引き続き人の役割が重要だと述べた。企業がAIのROIを高めるには、技術投資と並行して、業務の再設計や再教育、データ整備を同時に進める必要があるとしている。