写真=マーク・アイゼンシュタット氏のXアカウントより

AIを導入しただけでは、企業の競争力は高まらない。Limestone Digital創業者のマーク・アイゼンシュタット氏は、AIで成果を上げる企業は例外なく業務フローを見直していると指摘し、AI投資を利益につなげるには業務そのものの再設計が欠かせないと訴えた。

同氏はこのほど、X(旧Twitter)への投稿で、「AIライセンスを購入し、パイロットプロジェクトも進めているのに、業務の進め方は従来のままという企業は少なくない。外からはこれまで通りに見えても、すでに後れを取っている可能性がある」と述べた。

Limestone Digitalは、プライベートエクイティ(PE)の投資先企業にAIエンジニアを配置する事業を手掛ける。同氏は複数の調査結果を引き合いに、AIを導入した企業の多くが、投じた時間や資金に見合う成果をまだ上げられていないと分析した。

PwCが1月に公表した調査では、CEOの56%が「AIによる明確な財務成果を得られていない」と回答した。McKinseyの調査でも、回答者の10人に8人が生産性向上を実感した一方、利益への寄与を認めた企業は37%にとどまった。生産性の改善が、そのまま収益拡大には結び付いていない実態がうかがえる。

アイゼンシュタット氏は、この状況を工場の電化初期になぞらえて説明した。当時の工場主は蒸気機関を電動モーターに置き換えたものの、ラインシャフト(動力伝達軸)やベルトといった既存の仕組みはそのまま残したため、生産性はほとんど向上しなかったという。

経済学者ポール・デイビッドの研究では、機械ごとにモーターを取り付け、工場レイアウト全体を組み直して初めて大きな効果が表れたとされる。AIも同様で、業務の見直しを伴わない導入では効果は限られる、というのが同氏の見立てだ。

同氏は「1件の依頼を処理するのに今なお5つの部署をまたぎ、休暇中の社員しか管理していないExcelファイルを待たなければならないなら、AIモデルがどれだけ高速でも効果は限定的だ。それは、新しいモーターを古い回転軸につないだまま、なぜ工場が変わらないのかと問うのと同じだ」と説明した。

一方で、業務フローを抜本的に見直した企業では結果が異なる。McKinseyの調査によると、AI活用で高い成果を上げた企業の約4分の3は、業務フローをゼロベースで再設計していた。

Microsoftの事例もその一つだ。同社はクラウド事業のサプライチェーン業務を簡素化したうえで、約100の専用エージェントを導入し、平均処理日数を10営業日前後から2.5営業日未満に短縮したという。

アイゼンシュタット氏はあわせて、AI対応で後れを取る企業に共通する「7つの段階」も示した。まず、AIを導入した事実そのものが成果として報告される。次に、従業員が承認を得ずにAIを使い始める。その後、財務部門は支出を説明できても収益への貢献は示せなくなり、必要な人材の引き留めが難しくなる。さらに、顧客は他社の新しい体験を通じて期待水準を引き上げ、やがて差は利益率に表れる。最終的には、取締役会が説明を求める段階に至るという。

同氏は、技術を先に持っていても成功が約束されるわけではないとも強調した。例として挙げたのがSearsだ。Searsは1984年にIBM、CBSと組んでオンラインサービス「Prodigy」を開発し、1990年の時点で買い物や航空券予約を支援していた。AmazonがWebサイトを開設する5年前のことだ。それでもSearsは成果を出せなかった。同氏は「未来を先取りしても、組織を変えなければ意味がない」と指摘した。

では、企業はどこから着手すべきか。同氏は、小さく始めて効果を検証するべきだと助言する。会社全体は3カ月では変わらないが、1つの業務で成果を証明できれば、次の業務への展開は容易になるという。

そのうえで同氏は、「6週間以内に有用性を示せないのであれば、追加予算を投じる前にいったん止め、理由を検証すべきだ。削減できた時間に時給を掛けて、それだけ稼いだと説明してはならない。浮いた時間がどこに使われたのか、コストは下がったのか、成果物は増えたのかまで説明できなければならない」と述べた。

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