AnthropicとSalesforceが打ち出した「Claudeforce」を機に、AI時代のソフトウェアの主導権を巡る議論が活発化している。企業の基幹データを蓄積する既存の記録系システムを握る大手ソフト企業が優位を保つのか、それとも特定業務に特化した垂直型AIスタートアップが新たな成長余地を切り開くのかが焦点だ。
こうした中、Andreessen Horowitz(a16z)のパートナー、シマ・アンブル氏がX(旧Twitter)への投稿で見解を示し、注目を集めた。
アンブル氏はまず、既存のシステム企業がむしろ有利になり得るとの見方を紹介した。顧客がSalesforce上のデータをClaudeやCodexのようなAIに直接接続すれば、新たなAI専用アプリを導入しなくても済む、という考え方だ。
実際、ClaudeforceはSalesforceのアプリを開かずに、Claude内でCRM業務を処理できるようにするものだ。DocuSign、Atlassian、Klaviyoなども、単なる情報提供にとどまらず、業務そのものを代行する方向へと動いている。
その一方で、Claudeのような汎用エージェントが複数のアプリをまたいで業務を処理するようになるにつれ、ユーザー接点としてのUIと、実データを保持するシステムの分離が進んでいることが課題として浮上している。
アンブル氏は、こうした変化が垂直型AIスタートアップに機会をもたらすとみる。「垂直型スタートアップが勝つには、特定業務を既存企業のエージェントや汎用エージェント以上の水準で遂行する必要がある。1つの業務に集中することで、より深い業務理解を築き、確かなデータ資産を蓄積し、時間とともに改善する学習ループを回せる」と指摘した。
同氏は、エージェントを4段階に分けて説明した。第1段階は、情報を検索して要約する「検索型」。第2段階は、定められたルールに従って記録を更新する「処理型」。第3段階は、正解が一義的に定まらない案件について社内方針に基づいて判断する「ポリシー型」。第4段階は、戦略やリスクを踏まえ、組織が何をすべきかを自律的に判断する「主体型」だ。
アンブル氏は「1年前は既存企業の製品の大半が検索段階にとどまっていた。現在はかなりの数が実務処理まで担うようになり、DocuSign Irisのように一部では限定的ながら判断も始まっている。ただ、判断の範囲はなお自社システム内に保存されたデータに限られる」と述べた。
同氏はまた、実務の全体像は単なる記録の集積を大きく上回ると強調した。「契約書1枚が法務業務のすべてを表すわけではなく、チケット1枚だけで顧客課題の解決プロセス全体を把握できるわけでもない。汎用エージェントが複数のアプリに接続できても、それだけでは十分ではない。アプリごとに同じ顧客情報が異なる形で記録されて混乱が生じるうえ、取引先企業のシステムにはそもそもアクセスできない場合もある」と説明した。
さらに同氏は、垂直型AIが事業として成立し得る条件として4点を挙げた。専門家が出力結果の誤りを素早く見極められること、判断を要する業務であること、反復頻度が高く学習機会が多いこと、小さな業務単位から入り全体へ拡張できること、の4つだ。
その上で「法務、税務、会計業務の多くはこうした条件に当てはまる。製造現場における不良原因の調査も同様だ」と指摘。「既存システムと汎用エージェントだけで十分な業務もある一方、反復が多く、判断を要し、学習ループが強く働く領域では、垂直型AIスタートアップが勝てる余地はなお大きい」と強調した。