企業がAIを導入して作業時間を短縮しても、従業員が「仕事が楽になった」と実感できないケースは少なくない。AIの性能そのものではなく、効果測定の不備や業務プロセス上のボトルネック、創出した時間の再配分が曖昧なままになっていることが主因だという。
エンジニアリングマネジメント代表のヒサマツ・ゴウ(久松剛)氏は3日、ITmediaに寄稿した記事で、「AI導入の効果が消えたのではなく、組織内の別の業務に吸収されている」と指摘した。導入前に既存業務の所要時間を計測しないまま、導入後に見えやすい数値だけを成果として掲げても、実際の効果は見えにくいとする。
同氏が接した事例では、年間で6時間を削減したケースや、年1回、15日かかっていた業務を15分まで短縮したケースもあった。ただし、開発費や投入工数、業務の発生頻度まで含めて評価すると、現場の体感としての効果は限定的になり得るという。
重要なのは、削減で生まれた時間の使い道だ。AIによって1日30分を短縮できても、その時間を残業削減や新規事業にどう振り向けるのかを決めなければ、空いた時間は別の業務で埋まる。現場は「何時間削減できたか」を成果として捉えやすい一方、経営層はコストや人員、収益の改善を重視するため、評価指標のずれも生じやすい。
人員配置や残業時間に変化がなければ、削減した時間は損益改善に結び付きにくい。こうした状況では、時間短縮の効果を現場が実感しづらいと同氏はみている。
また、ボトルネックが別工程に移るケースもある。AIで担当者の作業速度が上がっても、レビュー担当や承認プロセスが変わらなければ、処理待ちは後工程に移るだけだ。特に、生成物を人が検証しなければならない業務では、シニア社員の負担がむしろ増える可能性がある。
つまり、個人の生産性が上がっても、それがそのまま組織全体の処理能力向上につながるとは限らない。
AIを活用して既存のSaaSを自社ツールに置き換える場合も、コストの見極めが欠かせない。ライセンス費用は不要になっても、セキュリティ対策や法令・制度改正への対応、保守運用といった業務が新たに発生する可能性があるためだ。
加えて、AI利用ガイドラインの整備、ログ管理、シャドーAIの検知、情報漏えいへの対応、トークン費用の管理など、従来はなかったガバナンス関連業務が増える可能性もあるとした。
AIの効果を実感するには、導入前の段階から業務量と目標を測定し、創出した人員と時間をどこへ再配置するかをあらかじめ決めておく必要がある。問われるのは「AIでどれだけ時間を減らせたか」ではなく、「生まれた時間をどこに振り向けたか」だ。