国家AI戦略委員会のハ・ジョンウ副委員長は31日、独自の基盤モデル開発にとどまらず、フロンティアAIを自ら開発・運用できる国家能力を確立すべきだと強調した。米中との格差を縮めるには、個別企業の競争だけでは限界があり、国内の最上位の能力を結集する必要があるとの認識を示した。
ハ副委員長は同日、ソウル市中区のソウルスクエアにある国家AI戦略委員会事務所で就任記者懇談会を開き、「モデルを一つ増やし、もう一つ公開するという発想ではなく、競争力のあるAIを自ら開発し、運用できる力を育てるべきだ」と述べた。
その上で、フロンティアAIは大規模言語モデルに限られる概念ではなく、こうした基盤をフィジカルAIなどへ拡張していく必要があると説明した。技術変化を追いかけるだけでなく、必要であれば先行できる自前の力が求められるとの考えを示した。
ハ副委員長は、最先端AIを巡る競争で国内企業が単独で米中企業と渡り合うには限界があると指摘した。「スタートアップか大企業かという二項対立ではなく、本当に優れた能力を持つグループが研究開発に集中し、その成果が広がる仕組みを作らなければならない」と語った。
政府の役割にも言及した。国内企業については「単独で競争するのは容易ではないが、政府が適切に支援すれば十分競争可能だ」と評価。Upstageなど国内AI企業がグローバル市場で競争力を示していることも例に挙げた。
とりわけ、米中への技術依存を引き下げる必要があるとした。中国については、豊富な人材と大規模投資、激しい企業間競争を背景にAI技術力を急速に高める一方、AlibabaやDeepSeekを軸にオープンウェイトAIのエコシステムで存在感を強めていると評価した。
また、中国が現時点でオープンウェイトAIの生態系を主導している一方、今後はフロンティアAIモデルの公開方針を変える可能性にも備える必要があると指摘した。「依存を最小化しながら、我々の競争力を高めなければならない」と述べ、政府が企業とともに政策変更に対応できる基盤を整える必要があるとの認識を示した。
◆基盤モデル事業の方向性を再点検 フロンティアAIの自前の能力確保へ
独自基盤モデル事業についても、方向性を見直す必要があるとした。最近の中間評価を巡る論争については、個別企業や評価結果への判断は避けつつ、事業開始時の本来の目的とフロンティアAIの競争力確保という目標に照らして、今後の進め方を点検すべきだと述べた。
ハ副委員長は「この事業が当初の目的に沿って適切に進んでいるのか、今後フロンティアAIとの格差を縮め、先頭グループに入るにはどの方法が適切なのかを改めて整理する必要がある」と語った。
さらに「AIをうまく活用することも重要だが、我々自身が強力なAIを作れる能力も依然として重要だ」とし、国家レベルで力を結集する方策を探るべきだと強調した。
具体的なフロンティアAI政策の方向性については、科学技術情報通信部が検討中の案を基に、国家AI戦略委員会で議論する方針だという。科学技術情報通信部で草案が具体化した段階で戦略委員会と協議し、適切な案を取りまとめた上で公表する手順を踏むと説明した。
フロンティアAIと並び、データ活用とデータセンター整備も喫緊の課題に挙げた。AI学習に必要なデータの活用過程で困難が続いているほか、開発技術の事業化に適用される規制や、大規模データセンター建設に伴う許認可の問題も解決すべきだとした。
AI関連の供給網については、電力から半導体、GPU、データセンター、データに至るまで、全段階で安定性を高める必要があるとみている。GPUは政府が確保量を増やしたものの、依然として十分ではないと評価した。特定の国や企業への依存を減らすため供給網を多角化するとともに、国内AI半導体の競争力を高める必要があると指摘した。電力インフラについても、データセンターとAI産業の拡大に合わせ、関係省庁と連携して対応する方針を示した。
◆地域と産業のAXを拡大 「国民が体感できる成果を」
産業現場と地域のAIトランスフォーメーション(AX)も、戦略委員会が取り組むべき課題として提示した。ハ副委員長は、選挙期間中に地域の現場を回る中で、中央政府と地域、また産業ごとにAIへのアクセスや理解度の格差が大きいと実感したと説明した。特に、地域産業でサプライチェーンの一角を担う中小・中堅企業へのAX支援が必要だと強調した。
製造現場に蓄積された暗黙知をデータ化し、フィジカルAIや産業AXに活用する方策にも言及した。熟練人材の不足に直面する地域の中小・中堅企業のノウハウを保存し、AIでつなぐことで、地域産業の持続可能性を高める必要があるとした。
一般国民のAIへのアクセスを高める「みんなのAI」も、地域格差を縮小する手段として示した。製造業など地域産業のAXを通じて地域の成長を促し、AI活用能力やアクセスが十分でない国民にもAIサービスを広げるべきだと述べた。この過程で、地域スタートアップにも新たな事業機会を提供できるとの見方を示した。
国家AI戦略委員会の運営方針については、戦略策定そのものより実行と成果に重点を置く考えを示した。ハ副委員長は、過去1年間で委員会が「AI行動計画」を策定し、省庁別の実行方向を具体化したことを主な成果に挙げた。
その上で、初年度は大きな戦略と方向性の提示に重点を置いたとし、今後は国民生活と産業現場で体感できる成果を可視化することに注力すると明らかにした。省庁間の争点調整や、民間専門家の助言を政策実行につなぐ役割も強化する方針だ。
◆AI成長の果実の偏在や雇用ショックも課題 政治活動には言及せず
AIの普及に伴う社会的影響についても、戦略委員会があわせて扱うべき問題だと指摘した。AI成長の果実が一部に集中すれば格差が拡大しかねないとして、市民社会と継続的に議論していく必要があると述べた。
AI導入に伴い企業が大規模な人員削減に踏み切った場合、分担金を課す内容などを盛り込んだ法案については、具体的な評価を避けた。ただ、「雇用を伴わない成長、雇用創出が限られる成長は起こり得る」とし、これに備えた安全装置や代替案を整えるための社会的議論が必要だと語った。
一方、今後の政治活動については言及を控えた。ハ副委員長は現在、共に民主党の釜山北区甲地域委員長職を維持している。
地域委員長職との兼務の可否や、2028年総選挙を含む政界再挑戦の可能性を問われると、「4カ月間空席となっている間にもAI分野では非常に多くのことが起き、懸案も山積している」とした上で、「今は国家AI競争力の向上と国家成長のため、この仕事に集中すべき時期だ」と答えた。
政治関連については、別途整理して説明する機会を設ける考えも示した。
懇談会の終盤に地域委員長職の去就を改めて問われた際には、「地域委員長に任命されてから、行政的な手続きについては別途何も進められていない」と説明。「懸案を迅速に処理しながら、今後どうするかはあらためて説明する」と付け加えた。