写真=イ・ジンウォン氏(F5コリア常務)

F5コリアのイ・ジンウォン常務は、企業AIの導入が概念実証(PoC)にとどまり、本番環境での運用に広がりにくい大きな要因としてセキュリティを挙げた。ガバナンスや機密データ保護に対する備えが不十分なままでは、企業AIの本格展開は難しいとの認識を示した。

イ氏は最近のインタビューで、「多くの企業がAI関連のPoCを進めているが、本番導入まで進む割合はまだ高くない。セキュリティをどう強化し、維持するかの準備が整っていないためだ。ガバナンスや重要な企業データの保護に問題が生じれば、大きなリスクになり得る」と述べた。

AIセキュリティが難しい背景には、従来のセキュリティ対策とは異なるアプローチが求められる点がある。イ氏は「これまではWebアプリケーションファイアウォール(WAF)を導入し、脆弱性に対応すればよかった。しかしAIセキュリティでは、脆弱性だけでなく、AIサービスに入力されるプロンプトも問題になり得る。不適切なプロンプトは従来の意味での脆弱性ではないが、無視できないリスクだ。脆弱性がなくても重要情報が流出する可能性がある」と説明した。

こうしたリスクは、アプリケーションを担うレイヤー7の制御だけでは防ぎきれないという。イ氏は「セキュリティ部門だけの課題ではなく、開発チームも関与すべき領域だ」と強調した。

一方で、企業のセキュリティ担当者の中には、AIも従来のITシステムと同じ発想で対策できると捉えるケースが少なくないという。これに対しイ氏は、AIアーキテクチャ全体を把握したうえで脅威の優先順位を見極める必要があると指摘する。

その一環として、F5は顧客向けワークショップを重視している。イ氏は「顧客がAIをより深く理解できるよう支援することが重要だ。本社レベルではAIアカデミープログラムも始めている」と述べ、AIセキュリティの前提としてAIそのものへの理解が欠かせないと訴えた。

生成AIで問題視されるプロンプトインジェクションについても、従来型の対策だけでは不十分だとの見方を示した。イ氏は「自然言語の命令で大規模言語モデル(LLM)ベースの生成AIシステムを操作するプロンプトインジェクション攻撃を適切に防ぐには、技術的な理解が必要になる。各区間やポイントごとに適切な対策を講じなければならない」と語り、「F5は配置場所に応じたソリューションを個別に開発している」と述べた。

AIでは、システムを先に構築し、セキュリティ対策を後付けする進め方も通用しにくいという。イ氏は「AIセキュリティは導入の初期段階から一体で進めるべきだ。セキュリティが担保されなければ本番環境には移れない。現場でも事前準備が必要だという認識が広がっている」と話した。

アプリケーション配信とアプリケーションセキュリティを軸に事業を拡大してきたF5は、足元でAIセキュリティを新たな成長分野と位置付け、製品強化を進めている。自社開発に加え、M&Aを通じてAIセキュリリティ関連のソリューションを拡充しており、直近ではパッチ管理ソリューション「F5インサイト」も公開した。

イ氏は「Anthropicのミトスは、侵入だけでなく重要情報へのアクセスまで自動化できる。企業としてはパッチ適用を急ぐ必要がある。F5もパッチ公開の頻度を四半期ごとから毎月に変更した」と述べた。そのうえで、「F5インサイトはLLMと連携し、AIを活用した運用と分析を支援する」と説明した。

F5は、AIセキュリティの実効性を高めるには、「フロントドア」「オーケストレーション」「推論」の3つの制御ポイントをカバーする必要があるとみている。

フロントドアは、ユーザーが利用するチャットボットのインターフェース環境を指す。F5はこの領域の保護に向け、既存のWAFアーキテクチャを再設計した。シグネチャや攻撃指標、リスクインテリジェンス基盤は維持しつつ、自社データで学習させたニューラルネットワーク層を新たに構築したという。

オーケストレーションは、プロンプトにコンテキストを付与するため、AIと社内システムが連携する領域であり、APIセキュリティが中核を担う。F5はこの分野の強化に向け、昨年Calypso AIを買収し、「F5 AIレッドチーム」と「F5 AIガードレール」を投入した。

推論の領域では、不適切な判断を前段で防ぐことが重要になる。イ氏は「推論の前段で問題を解決できれば、効率を高められる」と述べた。

そのうえで同氏は、「F5は最新のAIファクトリーアーキテクチャ全体を通じて、企業AIを効率的に拡張できるよう、ネットワーキング、セキュリティ、ロードバランシングの各能力に投資している」と説明した。

統合プラットフォーム戦略も、イ氏が重視するテーマの一つだ。イ氏は「F5 ADSP(Application Delivery and Security Platform)は、F5の各ソリューションを単一のプラットフォームで提供するものだ。単一コンソールからセキュリティポリシーを統一的に適用し、更新も一元管理できるよう支援する」と述べた。

さらに、「AIによるトラフィックの急増を踏まえ、AIトラフィックの可視化機能も提供する。人とAIのトラフィックを区別するだけでなく、そのAIトラフィックがChatGPTなのかClaudeなのかまで把握できる」と説明した。

企業の統制外で利用される、いわゆるシャドーAIの検知も、F5が成長余地を見込む分野だ。同社はこの対応のため、シャドーAIを検知するSure Path AIを最近買収した。これにより、ガードレール、レッドチーム、AIリミディエイト、Sure Path AIを含む統合AIセキュリティプラットフォームを構築したとしている。

F5は韓国市場の拡大策の一環として、韓国にPOP(Point of Presence)を自社で構築する方針だ。POPは、分散クラウドサービス「F5 Distributed Cloud Services」を提供するために、F5が世界の主要拠点で整備してきたグローバルネットワーク基盤を指す。

イ氏は「韓国にPOPを設ければ、SaaSプラットフォームのコストと品質の両面で、顧客により競争力の高いサービスを提供できる」と述べた。

F5のAI関連戦略は、セキュリティにとどまらず、ガバナンスやコスト管理にも広がっている。同社は「F5 AIゲートウェイ(F5 AI Gateway)」の機能を強化し、「F5 AIセキュリティプラットフォーム(F5 AI Security Platform)」に統合した。

F5 AIゲートウェイは、すべてのAIリクエストに一貫したポリシーを適用し、AIモデル、エージェント、ツールへのアクセスや利用方法を管理する統合コントロールプレーンを提供する。大規模なAI運用環境におけるコスト効率の改善にもつながるという。

イ氏は「チーム別、モデル別、提供事業者別のトークン使用量を把握できない組織は、AI活用による価値とコストを適切に評価しにくい。F5 AIゲートウェイは、トークン利用の可視化と統制を効果的に支援する」と語った。

キーワード

#F5 #AIセキュリティ #企業AI #LLM #プロンプトインジェクション #APIセキュリティ #ガバナンス #Distributed Cloud Services #F5 AI Gateway
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.