米国で拡大するステーブルコイン需要は、短期国債の資金需要を下支えする可能性がある一方、10年債や30年債といった長期国債の需要不足を直接補う構図にはなりにくい。論点は資金の総量ではなく、準備資産に求められる満期の短さにある。
CryptoSlateなどの報道によると、米国のステーブルコイン準備金の規制案では、資金の運用先が残存満期93日以内の資産に実質的に限られる。このため、準備金が新発の10年債や30年債に直接流入する仕組みにはなっていない。
一方、米財務省は8月19日、長期国債市場の流動性を支えるため、国債のバイバック(買い戻し)規模を拡大すると公表した。ただ、これはステーブルコイン準備金の運用ルールとは別の政策だ。ステーブルコイン準備金の増加が長期債バイバックやビットコイン価格に直接結び付くことを示す根拠は、現時点で確認されていない。
GENIUS Actでは、認可を受けた決済用ステーブルコインの発行体に対し、流通するステーブルコイン1ドル当たり最低1ドルの準備資産の維持を求めている。対象となる準備資産は、ドル現金、連邦準備制度への預け入れ、払戻可能な銀行預金、残存満期93日以内の国債、適格な翌日物レポおよびリバースレポ、関連する政府系マネー・マーケット・ファンド、当局が承認した類似の流動資産、適格なトークン化資産などだ。新発の10年債や30年債は、この対象には含まれない。
もっとも、制度の詳細整備はなお進行中だ。GENIUS Actは2025年7月に成立し、一般施行日は2027年1月18日、または最終施行規則の確定から120日後のいずれか早い日と定められている。通貨監督庁(OCC)は2月に規制案を提示し、8月19日には最終規則を11月までに策定する方針を示した。足元で発行体の準備資産が短期物中心となっているからといって、制度設計がすでに出そろったことを意味するわけではない。
実際、CircleのUSDC準備金は短期運用に偏った構成を示している。Circleが開示した6月30日時点のUSDC流通量は732億6900万ドルだった。7月31日時点では、準備資産が719億400万ドル、流通量が718億2600万ドルとなっている。
このうち607億1700万ドルはCircle Reserve Fundで運用されており、内訳は翌日物国債レポが527億2300万ドル、国債が71億7900万ドル。ファンド外の111億8700万ドルは大半が規制対象の金融機関への現金預け金だった。報告書に記載された直接保有の国債はいずれも9月22日までに満期を迎える。
ステーブルコイン市場の拡大を、そのまま米政府の新規調達需要に結び付けるのも早計だ。Circleの顧客は第2四半期にUSDCを830億400万ドル発行した一方、867億8400万ドルを償還しており、差し引きでは37億8000万ドルの純償還だった。四半期末時点の流通量は前年同期比で19%増えたが、前年12月末との比較では約20億ドル少ない。
財務省債券諮問委員会(TBAC)も同様の見方を示している。ステーブルコインの発行拡大は短期国債への需要を押し上げる可能性がある一方、その資金が銀行預金やマネー・マーケット・ファンドなど、もともと短期国債を支えていた資金から移ってくる場合、効果の一部は相殺されるという指摘だ。海外の新たなドル需要が流入すれば純増要因になり得るが、その比率を示す公式データは確認されていない。
長期国債市場は、これとは別の政策で動いている。米財務省は8月19日、10〜20年ゾーンと20〜30年ゾーンを対象とする流動性支援バイバックについて、1回当たりの上限を従来の20億ドルから最低40億ドルへ引き上げると発表した。9月9日から11月4日にかけて、9月10日、9月24日、10月1日、10月8日、10月15日、10月27日、11月4日の計7回を予定しており、対象ゾーンの総上限は140億ドルから最低280億ドルへ拡大する。
ただし、これはあくまで上限だ。買い入れ条件が合わなければ、実際の買い入れ額はこれを下回る可能性がある。
バイバックの目的は、政府の純借入額を減らすことではなく、既発債の取引流動性を改善する点にある。新発債が出ると、従来の基準銘柄はオフ・ザ・ラン債となり、売買が細ってディーラーの在庫負担が重くなることがある。財務省はこうした国債を買い入れることで市場機能を支えるが、その原資は他の歳出と同様に別途調達する必要があり、政府全体の借入需要が減るわけではない。
ジョシュ・フロスト氏(当時、財務省金融市場担当次官補)も、これは供給の断片化を抑え、ディーラーの受け皿機能を維持するための通常の市場機能支援策だと説明している。
この仕組みは量的緩和(QE)とも異なる。連邦準備制度による国債買い入れでは新たな準備預金が供給されるが、財務省のバイバックは財務省一般会計(TGA)の既存資金を使って国債を買い入れ、当該債券を消却するものだ。その資金は税収や新規国債発行で再び手当てする必要がある。
財務省は7〜9月期の純市場性国債(民間保有ベース)の借入額を7390億ドル、10〜12月期を6280億ドルと見込む。8月の償還性国債の発行では、3年債580億ドル、10年債420億ドル、30年債250億ドルなどを発行し、約287億ドルの新規資金を調達した。
国際決済銀行(BIS)の研究も、こうした満期の違いを裏付けている。2026年3月までのデータを分析した研究によると、35億ドル規模のステーブルコイン流入は3カ月物国債利回りを即時に0.71bp押し下げ、10日以内には約4bp、推計上のボトムでは約5bp低下させる効果があった。一方で、長期ゾーンへの波及は限定的、もしくは確認できなかった。
ビットコインとの関係はさらに間接的だ。長期金利はリスク資産の割引率や投資家心理に影響し得るほか、国債バイバックによる市場流動性の改善も間接的にはビットコイン相場に作用する可能性がある。ただ、ステーブルコイン流入や長期債バイバック、長期金利の低下がビットコイン価格を直接押し上げる因果関係は、現時点では確認されていない。
要するに、ステーブルコインは新たなドル需要を伴う場合には米政府の短期国債調達を支える資金源になり得るが、長期国債市場はなおデュレーションを引き受ける投資家に依存している。米財務省の流動性支援バイバックと、ビットコインに波及し得る金融環境の変化は、ステーブルコイン準備金とは別の仕組みとして捉える必要がある。