TeslaでAIハードウェア設計を率いていた幹部が、元DojoチームによるスタートアップのDensityAIに移籍した。Teslaでは次世代AIチップの開発を進める一方、中核人材の流出が続いており、自社半導体戦略への影響に関心が集まっている。
Electrekが24日付で報じたところによると、シ・シュアン・ソン氏は7月からDensityAIでパッケージングとシステムハードウェアを担当している。
ソン氏はTeslaで5年以上にわたり、DojoとAutopilotコンピューターの開発に従事した。退社前はAIハードウェア設計担当のシニアディレクターを務め、自社設計AIチップを量産可能なシステムとして実装する工程で中核的な役割を担っていたという。
同氏の経歴は、Teslaの自社半導体開発の歩みと重なる。ジム・ケラー氏の在籍時にAutopilotハードウェアグループへ加わり、初の完全自動運転コンピューターの開発に関与した。当時のTeslaは、NVIDIAへの依存を下げるため、自社チップ設計体制の構築を進めていた。
その後はWaymoに移り、ハードウェアエンジニアリングマネジャーとして設計検証、信号・電力インテグリティ、EMC、PCB設計の各チームを率いた。
ソン氏は2021年1月にTeslaへ復帰した。DojoとAutopilot向けAIハードウェアのシニアエンジニアを経て、2025年4月にAIハードウェア設計担当シニアディレクターへ昇進した。
担当領域は、半導体パッケージングや垂直電力モジュールに加え、信号・電力インテグリティ、PCB設計、熱設計・機構設計まで多岐にわたった。チップ設計そのものにとどまらず、製品化に必要なハードウェアシステム全体を担っていたことになる。
ソン氏が加わったDensityAIは、TeslaがDojo開発を中止した後に立ち上がったスタートアップだ。2025年8月のDojo開発中止後、当時スーパーコンピューターチームを率いていたガネシュ・ベンカタラマンアン氏が設立した。
当時はTeslaのスーパーコンピューターチームから約20人が加わり、Tesla出身のビル・チャン氏が最高技術責任者(CTO)を務めている。
DensityAIは、自動車、ロボティクス、産業分野の顧客向けに、AIデータセンター用のチップ、ハードウェア、ソフトウェアを開発している。TeslaがDojoを止め、AI学習向けの演算インフラをNVIDIA中心に切り替えた後の空白領域とも重なる事業だ。
今回の人事で注目されるのは、ソン氏の専門性にある。AI半導体業界では、トランジスタ設計に加え、先端パッケージングとシステム統合が競争力を左右する要素として重要性を増している。
高性能AIチップは、演算性能が高いだけでは製品化できない。大電力を安定して供給し、発熱を制御しながら複数の部品を1つのシステムとして統合する必要がある。ソン氏がTeslaで担ってきたパッケージング、電力伝送、熱設計の経験は、DensityAIのAIハードウェア開発に直結する可能性がある。
Teslaの次世代チップの開発日程にも関心が集まる。Teslaは4月にAI5チップのテープアウトを完了したが、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が示していたスケジュールからは約2年遅れた。量産は2027年半ばまで難しいとみられている。
AI6にはSamsung Electronicsの2ナノプロセスを採用する予定だが、同プロセスでは歩留まりの問題が指摘されている。マスク氏はこれとは別に、次世代AI演算システム「Dojo 3」構想にも言及したことがある。
製造インフラの整備も進んでいる。TeslaとSpaceXは、米テキサス州オースティンで200億ドル超規模のチップ工場「TeraFab」を推進している。
もっとも、自社チップ事業の成否は、設計したチップを実際に出荷可能な製品へ仕上げる人材と技術力に左右される。TeslaがAI5とAI6を軸に半導体戦略を立て直す中、中核ハードウェア人材が競合スタートアップへ移る動きは重荷になりかねない。
Dojo開発中止後は、旧リーダー層やエンジニアが相次いでTeslaを離れていた。そこに現職のシニアディレクター級までDensityAIに加わったことで、両社の人員構成に一段と注目が集まっている。
TeslaはAIとロボティクスを将来の成長エンジンと位置付け、自社チップの競争力強化を進める。一方のDensityAIも、Tesla出身者を基盤に、自動車・ロボット向けAIハードウェア市場への参入を狙う。
今後は、Teslaで中核半導体人材の流出がさらに続くのか、またDensityAIがTesla由来の技術と人材を基に、AIチップ・システム分野で実際の競合へ成長できるのかが焦点となる。