費用対効果を重視したAIモデルの選別が進み、AnthropicやOpenAIが展開する最先端の高価格モデルに逆風が吹いている。企業ユーザーの間では、必ずしも最上位モデルを選ばない動きが広がっているようだ。
英Financial Times(FT)は、決済会社Rampが約7万社の支出データを分析した結果として、Anthropicの最上位・最高価格モデル「Fable 5」への支出が、投入後2カ月余りを経てもAnthropic関連支出全体の約11%にとどまったと報じた。
これは、企業ユーザーが最も高性能なモデルを標準的な選択肢として採用してきた従来の流れとは異なる動きといえる。
FTは、アナリストやAnthropicの投資家の見方として、Fable 5の価格の高さに加え、既存モデルでも大半の業務ニーズを満たせることが背景にあると伝えた。従来の最先端モデルと比べて導入が鈍いことは、早ければIPOを視野に入れるAnthropicを巡る不透明感も高めているという。
こうした傾向が続けば、より大規模で高精度なモデルの学習に数十億ドルを投じてきた最先端AIモデル開発企業の事業モデルそのものが変化する可能性もある。
Anthropicに投資するベンチャーキャピタルAxelのパートナー、マイルズ・クレメンツ氏はFTに対し、「多くの利用者は常に最先端レベルの性能を必要としているわけではない。顧客が最先端モデルだけを選び続ける状況は持続可能ではなかった」と述べた。
その上で同氏は、「画期的な技術進歩は、疾病治療のようにAI企業が掲げる最も野心的な目標の実現や、優秀な研究人材の確保になお不可欠だ」としつつ、「今後はそうした成果が次第に“ショーケース”としての性格を強めるだろう」との見方を示した。
この流れを後押ししているのが、無料でダウンロードでき、用途に応じて改変も可能なオープンウェイトモデルの急速な進化だ。
これまでオープンウェイトモデルの潮流は、DeepSeekやAlibaba、Z.ai、Moonshotなど中国AI企業が主導してきた。ただ、足元では米国でも同分野への動きが加速している。Anthropicの本拠地である米国市場でも、オープンウェイトを巡る競争が強まってきた。
中でも注目されるのがNVIDIAの動きだ。The Informationによると、同社は少なくとも1兆パラメータ規模のオープンウェイト大規模言語モデル(LLM)「Nemotron 4」を開発しているという。
パラメータ数で見ると、これはNVIDIAが6月に公開した「Nemotron 3 Ultra」の約2倍に当たる。世界最大級のオープンソースモデルとは限らないものの、トップクラスの規模になるとの見方がある。中国のAIスタートアップMoonshot AIが最近公開した「Kimi K3」は総パラメータ数が2兆8000億、DeepSeekの「V4-Pro」は1兆6000億とされる。
NVIDIAは最近、コーディングAIスタートアップのPoolsideと60億ドル(約9000億円)規模のライセンス契約を締結した。この契約には、Poolsideに所属するエンジニアの大半を採用する内容も含まれる。さらにNVIDIAは、Poolsideの事前企業価値を120億ドル(約1兆8000億円)と見積もり、10億ドル(約1500億円)を投資する。
この件に関連し、米The Wall Street Journal(WSJ)は、NVIDIAがPoolsideを通じて、DeepSeekやKimi K3といった中国AI企業に対抗できる世界トップ級のオープンウェイトモデル開発を加速させると報じた。事情に詳しい関係者によると、オープンウェイトモデルは運用コストが低く、カスタマイズしやすいことから、OpenAIやAnthropicなど閉鎖型モデル陣営に対する直接的な挑戦になり得るという。