生成AIの有力な用途としてコーディング支援が存在感を高める中、AIを積極活用する一部企業で、社内向けコーディングAIの内製化が広がっている。高額な外部ツールへの依存を抑え、コスト管理と開発効率の両立を図る動きだ。
The Informationによると、Coinbase、Shopify、Rampは自社のコーディングAIエージェントを開発し、OpenAIやAnthropicが提供する高額なコーディング支援ツールの代替、あるいは補完手段として社員に提供している。
米国の暗号資産取引所最大手のCoinbaseは4月、AIコーディングエージェント「Forge」を開発し、全エンジニアが利用できるようにした。
ForgeにはSlack、GitHub、自社のWebインターフェースを通じてアクセスできる。新機能や新製品のアイデア検討から実装作業まで対応し、Coinbaseのコードリポジトリに加え、DatadogやSentryなど社内で利用するシステム上でも作業できるという。
CoinbaseはAIコストの削減を目的にForgeを自社開発した。独自のモデルルーターを介し、Anthropic、Google、オープンソースモデルを用途に応じて使い分けられるようにしている。
Forgeの社内利用は急速に拡大しており、結果としてコスト削減にもつながっている。The Informationは、Coinbaseのエンジニアリング担当シニアディレクター、チンタン・トゥラキア氏の話として、「以前はAIコストに明確な上限を設けておらず、支出が膨らんでいた。現在はトークン使用量が増え続けている一方で、支出はむしろ減っている」と伝えた。
ブライアン・アームストロングCEOは6月、Xへの投稿で、トークン使用量を増やしながらAIコストをほぼ半減させた方法を紹介した。
焦点は利用制限ではなく、基盤モデルの選定やルーティング、キャッシュ活用にある。Coinbaseは、利用上限を引き下げる代わりに、LLMゲートウェイでGLM 5.2やKimi 2.7といったオープンウェイトモデルをデフォルト設定とする実験を進めている。
あわせて、プロンプトを事前に解析し、キャッシュ状況やモデル価格を踏まえて最適なモデルに自動で振り分ける仕組みも構築した。アームストロングCEOは「複雑な計画立案には高性能モデルが必要だが、単純な実行であれば安価なモデルで十分だ。最終的にはモデル選択そのものをAIで自動化するのが目標だ」と説明している。
キャッシュの再利用も積極的に進めている。過去のプロンプトと応答を保存し、同一または類似の要求に対して再計算を避けることで、処理コストを抑える狙いだ。
もっとも、Forgeを開発したからといって、Coinbaseが外部ツールの利用をやめたわけではない。Anthropicの主力ツール「Claude Code」は、Coinbaseの約2500人のエンジニアの間で最も利用されているAIコーディングツールだという。
ECプラットフォーム大手のShopifyも、Claude CodeやOpenAI Codexに加え、自社開発のコーディングAIエージェント「River」を展開している。経営陣によると、5月時点で社員の75%がRiverを利用していた。トークン使用効率が高く、低コストでより多くのコーディング作業をこなせるとしている。
法人カードや支出管理を手掛けるフィンテック企業のRampも、自社のコーディングAIツール「Inspect」を開発した。
The New Stackによると、InspectはDatadog、Sentry、LaunchDarkly、Buildkiteなどと連携し、特定モデルに依存せず利用できる。MCPサーバーやカスタムツール、独自ワークフローと組み合わせ、複数の最先端モデルをサポートするという。
一方で、自社AIの開発が常にコスト削減につながるとは限らない。Bloombergによると、Walmartは6月、自社開発のコーディングエージェント「Code Puppy」の利用拡大を受け、社内利用を制限した。
The New Stackは、企業が自社開発するコーディングAIエージェントについて、社内システムと連携し、本番環境のテレメトリーデータを基に変更内容を検証する非同期型のエンジニアリングワークフローに適していると伝えた。
その一方で、開発者がエディタやターミナル内で直接作業する対話型の開発セッションでは、依然として商用アシスタントが主流だという。The New Stackは、AIコーディング支援を内製するか外部調達するかではなく、開発者と基盤モデルの間にあるオーケストレーション層を自社で握るかどうかが本質的な争点だと報じている。