米共和党のシンシア・ルミス上院議員は26日、暗号資産市場構造法案「Clarity Act」に盛り込まれた不正資金対策について、北朝鮮系ハッカー集団「ラザルス・グループ」の資金ルートを断つ有効な手段になり得るとの認識を示した。
報道によると、ルミス氏は同日、X(旧Twitter)への投稿で、ラザルスのような組織が金融規制の隙を巧みに突いていると指摘した。その上で、同法案に盛り込まれた制裁強化や取引の一時停止に関する規定を重要な対策として挙げた。
ルミス氏が特に重視したのは、201条、303条、305条の3条項だ。201条は、銀行秘密法に基づくマネーロンダリング対策の義務を暗号資産関連事業者にも広げる内容で、暗号資産交換業者、分散型金融(DeFi)サービスの運営者、暗号資産ATM事業者などが対象となる。
303条では、米財務省に暗号資産分野での新たな制裁権限を付与する。海外の法域や金融機関を、マネーロンダリング上の重大懸念先として指定できるようにする内容だ。
305条は、取引所やステーブルコイン発行体が、不法行為に関与している疑いのある取引を最長30日間、一時停止できるようにする規定を盛り込む。善意で対応した企業には民事責任を免除するセーフハーバーを適用し、法執行機関の正式な要請があれば停止期間を最長180日まで延長できる。
ルミス氏は、Clarity Actによって財務省の制裁権限が拡大し、不正資金が移動する前に企業が不審取引を止められるようになると説明した。これらは同法案に含まれる16項目超の不正資金対策の一部で、取引所破綻時の顧客資産保護にもつながり得るとしている。
こうした発言の背景には、北朝鮮系ハッカー集団による大規模な暗号資産窃取が続いていることがある。ブロックチェーンセキュリティ企業CertiKが5月に公表した報告書によると、北朝鮮系ハッカー集団は2016年から2026年初めまでに263件の攻撃を通じ、約67億5000万ドルを奪ったと推計された。
2025年に発生した暗号資産のセキュリティ事故656件のうち、北朝鮮関連は79件と全体の約12%にとどまった。一方で被害額は20億6000万ドルに達し、残る577件の被害額約13億4000万ドルを大きく上回った。攻撃件数は少なくても、高額資産を狙う傾向が強いとの分析だ。
2026年も同様の傾向が続いている。年初以降の暗号資産被害総額約11億ドルのうち、55%に当たる6億2000万ドル超が北朝鮮関連の事件によるものと分析された。
国際的な連携を求める動きも強まっている。6月にフランスで開かれた主要7カ国(G7)首脳会議では、北朝鮮による暗号資産窃取やサイバー犯罪への共同対応の必要性が改めて確認された。ルミス氏は、国家レベルで暗号資産を標的にするラザルス・グループの脅威に対し、Clarity Actが実効的な歯止めになり得ると強調した。
もっとも、法案成立の見通しは不透明だ。ルミス氏は、今会期中にClarity Actが成立しなければ、2030年まで包括的な暗号資産規制を整備する機会を失いかねないとの懸念を示した。業界団体も8月の休会前の採決を求めており、Grayscaleをはじめとする暗号資産業界に加え、Goldman Sachsのデービッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)も支持を表明している。
ただ、上院本会議での審議入りも容易ではない。共和党は本会議での審議入りを進めているが、討論終結に必要な60票の確保が最大の関門とされる。ジョン・スーン上院院内総務は、夏季休会前の法案成立は難しいとの見方を示す一方、本会議での審議入りだけは実現したい考えを明らかにした。
米政府出身のアン・ケリー氏は、上院の手続き上、8月7日の休会前に審議を終えるのは難しいとの見通しを示した。Galaxy Researchのアレックス・ソン氏も24日、年内成立の可能性を従来の50%から30%に引き下げた。予測市場Polymarketが織り込む2026年内の法案可決確率も33〜37%程度にとどまり、2月の80%台から大きく低下している。
Clarity Actを巡る論点は、暗号資産業界の規制枠組み整備にとどまらず、北朝鮮のハッキング資金や不正資金の流れを断つ手段として機能し得るかどうかに広がっている。今後は、上院が本格審議に入れるかに加え、制裁権限の拡大や不審取引の一時停止に関する条項が最終案に維持されるかが焦点となる。