高齢者を狙ったAI音声詐欺の被害が米国で拡大している。写真=Shutterstock

米国で、わずか3秒ほどの音声を基に家族の声を再現し、金銭をだまし取るAI音声詐欺が急速に広がっている。高齢者を狙ったケースが目立ち、被害額も膨らんでいる。

GIGAZINEが28日に報じたところによると、この手口では公開音声を使って本人そっくりの合成音声を作成し、家族を装って現金を要求するケースが相次いでいる。

米フロリダ州ヒルズボロ郡に住むシャロン・ブライトウェルは2025年7月、娘の声をまねた詐欺電話を受け、1万5000ドルを手渡した。電話口の女性は泣きながら、運転中に妊婦をはねる事故を起こし、携帯電話は警察に押収されたと説明したという。

その後、別の男性が電話を代わり、娘の弁護士だと名乗って保釈金が必要だと要求した。銀行で現金を引き出す際には用途を話さないよう求め、娘の信用に傷が付く恐れがあると伝えた。

ブライトウェルは通話から1時間もたたないうちに現金を引き出し、裁判所関係者を装った配達員に渡した。しかし、その後になって実際の娘と連絡がつき、事故そのものが存在しなかったことが判明した。

こうした犯罪は、米国でAIを悪用した代表的な詐欺手口の一つになっている。米連邦捜査局(FBI)のインターネット犯罪苦情センターは、2026年4月に公表した2025年の年次報告書で、「AIを活用した詐欺」を初めて独立項目として扱った。

2025年に受理したAI関連の申告は2万2000件を超え、被害総額は8億9300万ドルに達した。このうち、60歳以上の被害者による損失は3億5200万ドルだった。

FBIは、集計対象を被害者が犯罪を認識したうえで直接申告した事例に限っているとしており、実際の被害は統計を上回る可能性がある。

エンジニアのティム・グリーンは、「AI音声詐欺の被害者のかなりの数は、AIが使われていたこと自体に気付いていない可能性がある」と指摘する。その上で、8億9300万ドルという数字は上限ではなく、むしろ下限としてみるべきだと述べた。

詐欺の拡大を支えているのは、音声複製技術の利用ハードルが大きく下がったことだ。3秒分の音声があれば、元の声と聞き分けが難しい合成音声を作れるとされる。音声データは自動音声メッセージやポッドキャストの一部、Instagramの動画など、公開コンテンツから入手できる。

TikTokに投稿された動画に含まれる孫の声だけで、犯行に必要な材料がそろう場合もあるという。

加えて、利用できるツールが安価で種類も多いことも被害拡大の背景にある。Consumer Reportsは、Descript、ElevenLabs、Lovo、PlayHT、ResembleAI、Speechifyなど主要な音声複製サービスの多くについて、悪用防止に向けた実効性のある安全対策が十分ではないと指摘した。

もっとも、グリーンはこうした対策にも限界があるとみる。犯罪が起きて被害者が金銭を失った後、捜査を支援する役割にとどまり、そもそも3秒の音声から複製音声を作る段階を止める効果は大きくないという。

高齢者の被害が大きい理由について、グリーンは、平均的な貯蓄額が大きく、犯罪者にとって金銭的な見返りが大きいためだと説明した。

グリーンは「声は偽造できると100回説明しても、子どもや孫を装った声で助けを求められれば、その知識はすぐに吹き飛んでしまう」と語った。

こうした状況を受け、議論の焦点は被害後の追跡対応から事前の抑止策へ移りつつある。グリーンは規制案の一つとして、誰がAIによる音声複製を作成したのか追跡できるよう、サービス利用開始時に本人確認を義務付ける案を示した。

AI音声技術へのアクセスが容易になる中、公開音声データと低価格ツールの組み合わせによって生まれる詐欺の構造をどう断つかが、今後の主要な論点となりそうだ。

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