ソフトウェア脆弱性の発見や修正支援に特化したAIモデルの開発競争が熱を帯びている。攻撃側でもAI活用が進む中、防御用途のAIを強化する動きが大手テック企業から新興企業まで広がってきた。
関連業界によると、AnthropicやOpenAIなどの大手AI企業に続き、Google、Cisco、Microsoftといったエンタープライズ分野の有力企業も、セキュリティ分野向けAIモデルの開発競争に乗り出している。
Anthropicは「Mithos 5」、OpenAIはGPT-5.6モデルシリーズの最上位モデル「Sol」を、サイバーセキュリティ特化モデルとして展開しているという。
Googleは7月、価格競争力と効率性を訴求するGeminiの新モデル3種を発表し、このうちセキュリティ特化モデルとして「Gemini 3.5 Flash Cyber」を公開した。
Gemini 3.5 Flash Cyberは、ソフトウェア脆弱性の検出やパッチ適用を支援するモデル。初期段階では政府機関と信頼できるパートナーに対象を絞り、アクセスを限定したパイロット提供を行う。Googleは、大規模モデルに比べてトークン当たりの価格を抑えられる点を強調している。
Ciscoも同月に、コードリポジトリ内で既知のセキュリティ脆弱性を含む可能性が高いファイルを特定する小規模言語モデル群「Antares」を公開した。「Antares-350M」と「Antares-1B」はHugging Faceで重みを公開するオープンウェイトとして提供し、より大規模な「Antares-3B」も投入する予定だ。
Ciscoによると、Antaresは同社のセキュリティAI研究・エンジニアリング組織「Cisco Foundation AI」が開発した。公開脆弱性データベースやセキュリティ勧告、共通弱点分類(CWE)の情報をコードリポジトリ内の特定ファイルに対応付け、脆弱性の位置を絞り込むことに重点を置く。
Antaresは、脆弱性の説明を基に関連するコードパターンや候補ファイルを探索する。得られた手掛かりに応じて探索経路を切り替えながら、有力な候補ファイルを順位付けして提示し、最終的な探索経路も出力に含める。
各モデルはいずれもローカル環境で実行できる水準にある。このため、セキュリティチームは機密性の高いソースコードをクラウドに送らず、自社環境内で分析を進められる。Ciscoは、大学や公共部門、非営利団体のほか、商用モデルに十分な予算を割けない小規模なセキュリティチームに適するとみている。
Microsoftも7月28日、サイバーセキュリティ特化AIモデル「MAI-Cyber-1-Flash」を発表した。同社によると、複雑なコードベースから発見が難しい脆弱性を見つけ出すよう設計しており、ソフトウェア脆弱性の識別・修正プラットフォーム「MDASH」に搭載する。既存のAIサイバーセキュリティベンチマークでは、競合モデルに対して性能とコスト効率の両面で優位性があると訴えている。
セキュリティ特化モデルを巡っては、スタートアップの動きも活発だ。SiliconANGLEによると、Cogent Securityは7月28日、企業内部の攻撃経路を実際に探索・検証するフロンティア推論モデル「VR-1」を公開した。
VR-1は、稼働中の企業環境において、クラウドインフラ、アイデンティティーシステム、内部ツールを経由する攻撃経路を見つけ出し、実行を通じて検証できるよう学習したという。
同社によると、VR-1はCogentのベンチマーク「IntrusionBench」で、他のフロンティアモデルに比べて2倍多い攻撃経路を立証した。コストは約4分の1にとどまったとしている。
この性能指標は、エージェントに事前情報を与えない条件で、侵入済み環境を対象に測定した結果だ。比較対象にはKimi K3、Claude Opus 4.8、GLM-5.2を用いた。
Cogent Securityは、実際の侵入は単一のコード脆弱性を見つける作業よりはるかに複雑だと説明する。外部公開サービスの小さな欠陥や、過剰な権限を持つアカウントといった一見些細な弱点でも、それらが連鎖すれば侵入につながり得るという。VR-1は、こうした脆弱性を攻撃者の視点で結び付けた上で、提案した修正措置がリスクを解消したのか、それとも別の場所に移しただけなのかの確認も支援するとしている。
VR-1とあわせて発表した「Cogent AI Harness」は、オープンウェイトモデルとクローズドモデルの双方に対し、環境情報、制限付きツール、ポリシー執行機能を提供する。すべての行動は顧客ポリシーに基づいて検証される。
VR-1の利用には「Cogent Frontier Access Program」の審査が必要となる。2025年設立のCogent Securityは、Google DeepMind、Abnormal AI、Coinbase出身の研究者や運用人材で構成される。脆弱性の調査から担当チームへの引き継ぎ、修正反映の確認までを担うAIエージェントを提供している。