電気自動車火災による損害を、原因究明前でも先行して補償する「電気自動車火災安心保険」が7月に始まった。約款には、損害保険会社が補償後にバッテリーを含む部品メーカーなどへ求償できる条項が盛り込まれており、責任分担のあり方として注目を集めている。
1件当たりの補償上限は150億ウォン。火災原因が特定できなければ保険会社が負担し、原因がバッテリーの欠陥と確認されれば、最終的な請求先がセルメーカー側に及ぶ可能性がある。原因をどこまで立証できるかが、数十億ウォン規模に及ぶ負担の帰属を左右する構図だ。
気候エネルギー環境部の約款によると、第7条の1では、保険会社が先行補償した後、火災原因と過失の有無が確定した場合、求償先として、出火車両の所有者または運転者、メーカー(部品メーカーを含む)または輸入業者、充電設備の所有者または管理者、そのほか法律上の損害賠償責任を負う第三者を挙げている。部品メーカーが求償対象として明文化された格好だ。
一方、約款ではバッテリー製造会社を被保険者の範囲から除外した。第2条では、建物管理会社や充電設備管理者と並び、「対象電気自動車メーカー(部品メーカーを含む)または輸入業者」を被保険者から外している。
保険料負担の枠組みにも、バッテリー会社は含まれていない。年間保険料総額60億ウォンのうち20億ウォンを政府が支援し、残る40億ウォンは電気自動車補助金の対象車種を販売するメーカー・輸入業者が分担する。7月15日時点の参加企業はHyundai Motor、Kia、Tesla Korea、Mercedes-Benz Koreaなど21社。保険料の負担者と、将来の求償対象となり得る主体が一致しない仕組みとなっている。
ただし、バッテリーの製造欠陥が立証された場合、この保険による補償は適用されない。第4条第19号は、対象電気自動車の設計上の欠陥、製造上の欠陥、材質上の欠陥によって生じた火災損害は補償しないと定めている。原因不明の段階では保険が機能する一方、欠陥が確認されれば製造物責任の領域に移る仕組みで、火災原因の特定が負担主体を分ける分岐点となる。
さらに、欠陥が立証されなくても、メーカー側に別途請求が及ぶ余地はある。補償上限の150億ウォンは、必ずしも損害全額をカバーするものではないためだ。約款第8条第5項は、1件の事故による総損害額が補償限度額を上回る場合、各被害者に対し、損害額の比率に応じて保険金を支払うと定めている。
約款の例では、総損害額が200億ウォンなら補償率は75%、500億ウォンなら30%にとどまる。総損害額500億ウォンの事故では、350億ウォン分が保険でカバーされない計算になる。
この未補償分については、被害者が出火車両の所有者やメーカーに別途損害賠償を求めることになる。2024年に仁川市青羅の集合住宅地下駐車場で発生した火災のように、約140台の車両被害と建物被害が重なった大規模事故では、保険に基づく求償と保険外の損害賠償請求が並行して進む可能性がある。
補償対象は、駐車中または充電中に発生した火災に限られる。出火車両そのものの損害や、浸水が直接原因となった火災、認証を受けていない充電設備の使用が直接原因となった場合は免責となる。
◆BMS診断能力、求償時の防御材料として浮上
この保険は、2026年から2028年までの3年間運用する政策保険だ。3年分の事故データが蓄積されれば、原因不明火災の比率や求償の実効性が可視化され、2029年以降の制度延長の可否や保険料算定の基準になるとみられている。焦点の1つが、電気自動車火災データの解釈を誰が主導するかだ。
セル単位の異常兆候を示す記録を確保した側は、欠陥の有無を巡る立証・反証の材料を持つことになる。このため、BMS(バッテリー管理システム)の診断能力は、安全技術にとどまらず、求償時の防御材料として機能する可能性がある。
バッテリー業界は、こうした立証局面を見据えてBMS関連の能力を積み上げてきた。LG Energy Solutionは21日、バッテリー安全診断ソフトウェア事業を拡大すると発表した。同社によると、このソフトウェアは、充電中の電圧低下、バッテリータブ不良、微細な内部短絡、異常劣化、リチウム過剰析出などの不良類型を事前に診断できるという。
同社はBMS分野で8000件超の特許を保有する。セルベースで13万件超、モジュールベースで1000件超を分解・分析した実証データを基に開発したとしており、すでに10万台超の電気自動車に適用、90%超の安全診断検出率を確保したとしている。現在、世界の完成車メーカー9社に供給しているという。
もっとも、約款は求償対象を「メーカー(部品メーカーを含む)」と包括的に定めるにとどまり、完成車メーカーとバッテリー会社の負担割合までは示していない。診断データを誰が保有し、どこまで開示するかを巡って、両者の利害が対立する可能性がある。業界では、実際に求償事例が発生した場合、責任配分は個別の供給契約や訴訟を通じて判断されるほかないとの見方が出ている。