KTのパク・チョルウ氏(エンタープライズ部門 金融事業担当)が金融向けAX戦略について説明する。写真=KT

KTは、金融機関向けのAIトランスフォーメーション(AX)支援を強化する。金融特化型AIソリューションに加え、データ基盤やクラウド、コンサルティングを組み合わせ、戦略策定から構築、運用、内製化までを一貫して支援する方針だ。

同社はこのほど、金融AX事業の方向性を紹介する場を設けた。単なる概念実証(PoC)や個別のAI導入にとどまらず、実務と経営成果の変化につながるAXの定着を目指す。

生成AIの次の段階としてエージェンティックAIへの関心が高まる中、金融業界でも相談、営業、審査、資産運用といった中核業務へのAI適用が加速している。AI基本法の施行、金融業界向けAIガイドラインの整備、ネットワーク分離規制の見直しなど制度面の変化も追い風となっており、KTはこうした環境変化を背景に金融AXを強化する。2026年上半期には、金融業界向けだけで20件超のAX案件を受注したという。

一方で、個人情報保護やセキュリティ、監査、説明責任といった金融特有の規制要件を満たしながら、AIを安定運用する難しさも増している。KTは、金融AXは業務革新と安定運用の両立が求められる段階に入ったとの認識を示した。

◆金融AXは技術ではなく経営成果で測る

KTは、金融AXの成否を左右するのは技術そのものではなく、実行後の成果だとみている。金融業界はAXの効果を比較的明確に測定しやすい市場で、相談対応時間、商品販売率、顧客転換率、審査処理時間、運用費用など、導入前後の変化を数値で把握できるためだ。

KTエンタープライズ部門で金融事業を担当するパク・チョルウ常務は、「金融AXは必ず経営成果と結び付くべき分野だ。そうして初めて、AIが業務に寄与しているという信頼と確信を得られる」と述べた。

その上で、「金融AXで重要なのは、どのLLMを使ったか、どの技術を適用したかではない。このプロジェクトがどれだけの価値を生み出したかを示さなければならない」と強調した。

KTは、多様な技術スタックに加え、成果測定の仕組みを基盤として金融AXを推進する。業務領域ごとの特性に応じて適用範囲を広げ、業界の実情に合ったソリューション提供につなげる考えだ。

銀行分野では、AIチャットボットや相談ボットを含むエージェンティックAIコンタクトセンター(AICC)を展開している。あわせて、グループ統合AIプラットフォームや、AIベースの開発・運用体系であるAIDLC(AI Development Life Cycle)の開発も進める。

保険分野では、生成AIベースの「セールスアシスタント」を構築し、担当者の相談対応や商品提案を支援する。AIが保険商品や約款、引受指針などを分析し、相談に必要な情報をリアルタイムで提供する仕組みだ。カード分野では、LLMがデータを活用しやすい統合プラットフォームと、AIを安定的に展開・運用するLLMOps基盤を構築した。

特にKTとPalantirの協業は、金融業界におけるAX拡大を後押しする可能性がある。KTは、企業がPalantirを初期導入する際に直面しやすいコストや技術負担を軽減するため、無償ワークショップを含むパイロットプログラムを提供する。

◆5レイヤーのフルスタック体制で実運用まで支援

KTは金融AXを、個別ソリューションの販売ではなく、エンドツーエンド(E2E)の事業として進める。AX戦略の策定から業務設計、システム構築、運用、内製化、性能改善、他業務への展開まで、全工程を支援する。

KTのAXエンジニアリング本部を率いるキム・ヨンミン常務は、業界のAX推進プロセスについて「PoCやパイロット段階までは成功しても、実務への展開で行き詰まるケースが多い。データ、ガバナンス、運用モデルの3要素が欠けているためだ」と指摘した。

この課題に対応するため、KTは戦略・コンサルティング、データ、AIプラットフォーム、エージェント、運用ガバナンスをつないだ「5レイヤーAXフルスタック」体制を整えた。顧客と共同でAX戦略を策定し、AIとデータを基に業務を再設計し、実運用を通じて継続的に高度化する構えだ。

AIの専門人材が顧客の現場に直接入るFDE(Forward Deployed Engineer)方式も採用する。さらに、企業データをAI資産へ転換する統合サービス「Data4AI」をはじめ、業務とデータをつなぐ知識モデル「K-Ontology」、エージェント、運用ガバナンスを組み合わせてAXプロジェクトを進めるとしている。

KTは「今後も、金融機関が保有するデータと知識資産を継続的に活用できるAX基盤を構築する。最終的には金融業界の業務成果と生産性の向上につなげたい」としている。

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