BlackRockは、ビットコインなど暗号資産ネットワークに対する量子コンピュータの脅威について、技術的には対処可能との見解を示した。論点は量子計算そのものの進展ではなく、耐量子暗号への移行を分散型ネットワークでどれだけ速く合意し、実装できるかにあるとしている。
7月23日付のBitcoin Magazineによると、BlackRockは新たな報告書「Quantum Computing and Blockchain」で、既存の暗号方式を耐量子暗号へ移行する方が、現行暗号を破れる水準の量子コンピュータを実用化するより容易だと指摘した。
報告書は、焦点を技術的な可能性より実行面に置く。暗号資産のポスト量子移行は技術的には十分可能で、主な課題は適切なタイミングで調整し、実装することだという。特にビットコインのような分散型ネットワークでは、中央集権的に一斉変更することが難しく、アップグレードの必要性を巡る合意形成と導入のスピードがセキュリティ水準を左右するとした。
量子コンピュータがビットコインの暗号方式を無力化し得るとの懸念は、暗号資産業界で継続的に議論されてきた。一部のビットコイン開発者は、サイドチェーンで耐量子署名方式を試験するなど備えを進めている。一方、BlackRockは、現時点の量子コンピュータはエラー率が高く、ビットコインの暗号を実際に破れる装置はまだ存在しないとの前提を示した。
BlackRockは、ビットコインの現行構造が抱える脆弱性にも触れた。流通中のビットコイン供給量の約35%は公開鍵が既に明らかになっており、特定の攻撃に対して潜在的に脆弱な可能性があるとした。さらに、総供給量の11~19%は、移行が実施されても恒久的に失われたコインである可能性があると推計した。耐量子方式に移行しても、すべてのコインが同じように保護されるわけではない点を示した形だ。
またBlackRockは、Coinbase、Fidelity Digital Assets、Blockとともに、Bitcoin Security Consortiumの立ち上げも発表した。同コンソーシアムは、BIP-360のような提案を支援するオープンソースエンジニアへの資金提供に注力する。BlackRockはBIP-360について、有力な提案の一つであり設計面でも評価できるとする一方、これだけで解決策が完成するとは見ていない。
こうした見解は、資産運用会社としての利害とも重なる。BlackRockは2024年にビットコインとイーサリアムの現物ETFを上場しており、ビットコインETFはETF業界でも極めて成功した上場事例の一つとして取り上げられてきた。ラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)もこれまで、ビットコインをデジタルゴールドかつ国際的な資産と位置付け、暗号資産ネットワークが多様な資産のトークン化を支え得ると述べている。
報告書の結論は、現時点では防御側が優位にあるというものだ。BlackRockは、ビットコインやイーサリアムを含む現在の暗号方式を量子耐性のある標準へアップグレードする方が、現在の量子計算の発展段階で暗号を破る新たな量子コンピュータを作るより、はるかに負担が小さい課題だとした。その上で、現状では明確に防御側が優勢だと付け加えた。
今後の焦点は、実際の脅威がいつ到来するかより、ネットワークアップグレードの準備をどれだけ早く進められるかに移りつつある。BlackRockは、解決策そのものが欠けているわけではないが、ビットコインのような非中央集権型ネットワークでは、技術的に可能なだけでは移行は進まないと指摘する。量子脅威を巡る議論は、計算性能の競争から、合意形成とセキュリティ移行の実行力へと軸足を移しつつある。