UnboundLabDevのチョ・ヨンミン代表

企業の人工知能転換(AX)で成否を分けるのは、AIを導入したかどうかではなく、何を解決するのかという課題設定だ。成果指標も導入率や利用率ではなく、売上高や投資収益率(ROI)といった事業成果にひも付けて設計する必要がある――。UnboundLabDevのチョ・ヨンミン代表が16日、こうした見方を示した。

発言は、ソウルのウェスティン朝鮮ソウル・パルナスで開かれたSalesforce Koreaのイベント「Agentforce Digital Summit 2026」での講演によるもの。チョ代表は、課題設定が曖昧なままでは、どれだけ優れた技術や専門人材を投入しても成果は出にくいと述べた。

チョ代表は、米韓の未上場テック企業に投資してきたベンチャー投資家でもある。講演では、法務AI企業のHarveyのほか、Anthropic、SpaceX、Viva Republica、KRAFTONを主な投資先として挙げた。

企業のAI導入では、既存業務の時間短縮に議論が偏りがちだという。チョ代表は、文書作成や情報検索の効率化にとどまらず、売上高や収益性、顧客維持率といった最終的な事業成果の改善につながる形で課題を設計すべきだと指摘した。

同氏はこうした考え方を、既存の部門KPIより一段上位に置く「Level+1 KPI」と表現した。AIの導入件数や機能実装そのものを成果とみなすのではなく、その技術が事業にどのような結果をもたらすのかを先に定めるべきだという考え方だ。

具体例として、国内コンビニ2社の「1+1」発注AIを紹介した。A社は賞味期限と在庫を基に、廃棄率の低減をKPIに設定。一方、B社は天候や商圏、時間帯などを反映し、店舗オーナーの収益拡大をKPIに据えた。

チョ代表によると、B社がソウル・江南圏の一部店舗でこのAIを実証したところ、廃棄量は増えた一方で、店舗オーナーの月間収益は1000万ウォンから1800万ウォンに増加した。AIの目標を在庫効率化ではなく店舗収益の拡大に置いた結果だと説明した。

Harveyも、事業目標を明確に定めた事例として取り上げた。Harveyは米国の弁護士向けの法務特化型AIサービスで、法務調査や文書のレビュー、作成など弁護士業務全般を支援する。

チョ代表は、汎用モデルを一部業務に当てはめるだけでは不十分だと指摘した。業界ごとの業務構造や専門知識に合わせて設計してこそ、現場の意思決定や生産性の向上につながると強調した。

企業ごとのデータや業務の文脈を反映させる工程も重要だという。AI産業は、半導体やデータセンターなどのインフラ層、汎用モデルを供給するハイパースケーラー、さらに業界業務に特化したソフトウェアへと連なる構造にあると説明した。

そのうえで、汎用モデルの導入にとどまらず、データと業務プロセスを蓄積してきたソフトウェア企業や、現場を理解する専門家との協業が必要だとした。チョ代表は、汎用モデルを各社の業務や成果に結び付ける最後の実装段階を「ラストマイルソリューション」と表現した。

汎用AIツールを入れただけでは、現場への定着は進まないという指摘もあった。パネル討論では、導入後に実利用へつながらなかった事例が紹介された。

チョ代表によると、国内のある証券会社はCopilotを全社展開したが、一定期間後の利用率は20%未満にとどまった。どの業務や意思決定を改善するのかを定めないまま、汎用ツールを先行配布したことが要因だと分析した。

同氏は、AIへの初期の関心を実際の利用に結び付けるには、AIに担わせる業務を先に定める必要があると述べた。あわせて、業界と業務を理解する専門パートナーの役割も重要だとした。

Salesforce Koreaのインダストリーアドバイザー、キム・ピョンホ氏も、AI戦略が不明確なままでは、プロジェクトが概念実証(PoC)の段階で止まりやすいと指摘した。

同氏は、AIがどの業務を担い、従業員の生産性をどれだけ高め、企業収益にどの程度寄与するのかを明確に設定すべきだと説明した。企業に必要なAIエージェントと、それぞれが生み出すROIを定量的に測定してこそ、現場と経営の双方に受け入れられるAXの実現につながると述べた。

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