ETH Zurichの研究チームが、機械振動を利用して量子情報を保持する爪サイズの量子チップ構造を開発した。演算部とメモリを分離することで、量子コンピュータのメモリ拡張につながる新たなアプローチを示した。
米TechRadarが16日に報じた。研究チームは、量子演算と情報保持を別の構造に分けた新しい量子チップを設計した。
研究を主導した量子物理学者イ・ウォンチョウ(Lee Won Chou)は、可聴域を大きく上回る機械振動を使って量子情報を保存・処理する方式を提案した。
今回の構造の特徴は、従来の量子コンピュータと異なり、演算とメモリを分離している点にある。古典コンピュータでCPUとメモリが役割を分担するのと同じ発想を、量子チップ内部に持ち込んだ。
演算部に当たるのは超伝導トランスモン量子ビットで、作業メモリにはHBAR(High-Overtone Bulk Acoustic Resonator、高倍音バルク音響共振器)を用いる。
HBARには複数の振動モードがあり、各モードをメモリスロットとして使う。量子ビットがそれぞれの振動モードから量子情報を読み出して演算し、処理後は再び対応する振動状態に書き戻す仕組みだ。
研究チームはこの構造をギターの弦に例える。弦が振動の仕方によって異なる音を出すように、HBARでも異なる振動モードを独立した量子情報の保存先として利用できるという。
この方式は、演算とメモリを近い構造で処理する既存設計とは一線を画す。保存機能と計算機能を切り分けることで、メモリ効率の向上を狙う。
研究チームは、小型高密度化の可能性も利点に挙げる。音響波の波長は電磁波より約10万倍短く、同じ面積でもより多くのメモリ構造を集積しやすいためだ。量子コンピュータ全体としてはなお大規模なシステムを必要とするものの、チップ内メモリ密度の向上には有利だとしている。
基礎性能の検証も進めた。新チップでは、量子コンピュータの性能評価に使われる量子フーリエ変換と周期探索アルゴリズムの実行に成功した。研究チームは、概念実証にとどまらず、実際の動作可能性も確認できたとしている。
最終目標は、量子ランダムアクセスメモリ(QRAM)の実装だ。QRAMは、より大規模な量子メモリを効率よく扱うための中核技術の一つとされる。
一方で研究チームは、実用化にはメモリの拡張性と演算性能を同時に確保する必要があると説明した。
今回の研究は、量子コンピュータの大きな制約の一つであるメモリ問題に対し、新しい解決策の可能性を示した点に意義がある。小型の音響共振器を使ってメモリスロットを大幅に増やす構造を提示しており、今後はより大規模な量子システムへ拡張できるかが焦点となる。