SpaceXの低軌道衛星通信網「Starlink」(写真=Shutterstock)

SpaceXが将来のAIインフラとして描く軌道データセンター構想について、技術的には成立し得るものの、事業化には打ち上げ能力、放熱、コスト、通信遅延といった複数の課題が立ちはだかるとの見方が出ている。維持には年間数千回、最大で1日42回の打ち上げが必要になるとの試算もある。

米ITメディアArs Technicaが15日(現地時間)、こうした分析を報じた。軌道データセンターそのものは新たな物理法則を必要とする構想ではないが、前例のない規模の衛星群と打ち上げ体制の構築が最大のハードルになるという。

SpaceXは、長期的にはロケット事業以上に軌道データセンターを中核の成長領域と位置付けている。総発電能力120GW規模の衛星を100万機運用し、数千万個から最大1億個の先端GPUを宇宙上のデータセンターサービスに活用する構想を示している。

イーロン・マスク氏と、SpaceXで衛星エンジニアリングを統括するイアン・ダル氏は、6月に公開した動画で、第1世代の軌道データセンター衛星「AI1」計画を初めて紹介した。マスク氏は、新たなブレークスルー技術が必要なわけではなく、Starlink V3衛星に使われている技術の多くを転用できると説明している。

ただし、その前提として同氏が挙げたのが、次世代の超大型打ち上げ機「Starship」による打ち上げコストの大幅な低下だ。Ars Technicaは、AI1衛星1機が約600平方メートルの太陽光パネルを備え、平均120kW程度の演算処理向け電力を供給できると分析した。

一方で、衛星の重量は大きな制約となる。太陽光パネルだけで1〜2トン、宇宙空間へ熱を逃がすラジエーターも少なくとも1〜2トン必要と推定される。衛星本体やGPUを含めると、1機当たりの重量は約3.5〜7.5トンに達する可能性がある。

こうした衛星を低軌道へ運ぶには、超大型の再使用型ロケットが欠かせない。SpaceXはStarship V3の低軌道投入能力を約100トンとし、次期V4では200トンまで引き上げる案を検討している。Ars Technicaは、理想的なStarshipの打ち上げコストを2000万ドルと仮定した。この場合、低軌道への輸送コストは1kg当たり約100ドルとなるが、完全再使用を前提にしたこの水準を実際に達成できるかは不透明だ。

運用面でも負担は重い。SpaceXは衛星1機の寿命を5〜7年程度と見込んでいるとされ、仮に5年で更新が必要だとすると、100万機規模の衛星群を維持するだけで毎年数千回の打ち上げが必要になる。

試算では、楽観的なケースでも1日10回、保守的なケースでは1日42回のStarship打ち上げが求められる。昨年の世界全体の軌道投入回数は329回で、このうちSpaceXが約170回を占めた。軌道データセンターが現実化した場合、現在の少なくとも20倍超の打ち上げ能力が必要になる計算だ。

製造コストも極めて大きい。市場調査会社Quivalasは、Starlink V3衛星1機の製造費を約100万ドルと推定している。ただ、AI1は大型の太陽光パネルや高性能GPUの搭載が前提となるため、実際の製造費はこれを大きく上回る可能性が高い。

さらに、地上との接続を支える通信インフラの整備費まで含めると、プロジェクト全体の規模は数兆ドルに達する可能性があるとの見方もある。

技術面で最大の課題として挙がるのが放熱だ。地上のデータセンターは空気の対流を利用して冷却できるが、宇宙では熱を放射で逃がすしかない。

このため、大型の放熱板と冷却流体の循環システムが必要になる。国際宇宙ステーション(ISS)は総重量6トン超のラジエーターで約70kWの熱を処理しているが、同じ仕組みを大規模な衛星群にそのまま適用するのは、重量面でもコスト面でも負担が大きすぎるとの指摘がある。

SpaceX出身の物理学者サム・ウォルドマン氏は、Starlink衛星が現在の形状を採る理由の1つも放熱面積の最大化にあるとし、SpaceXはこの分野のデータを十分に蓄積していると評価した。これに対し、Starcloud共同創業者のフィリップ・ジョンストン氏は、宇宙ステーション型のラジエーターは「高価で重い」と指摘し、現在は低コストで軽量な放熱技術の開発に注力していると説明した。

放射線については、比較的対処可能な課題とみられている。SpaceXはStarlinkの運用を通じて、GPUやメモリなど主要な演算部品に一定の耐放射線性があることを確認したとされる。Starcloudも昨年、NVIDIA H100 GPUを試験衛星に搭載して宇宙環境でテストし、現時点では正常に動作していると明らかにしている。

一方、通信遅延はAIワークロードの種類によって制約になり得る。衛星間の距離は数十メートルから数キロメートルに広がる可能性があり、数千基のGPUをリアルタイムで同期させる大規模AI学習には不利に働く可能性がある。

これに対し、同期負荷が比較的小さいAI推論は、軌道データセンターと相性が良い可能性がある。地上と宇宙の往復通信による遅延も避けられないため、クラウドゲームのような超低遅延サービスへの適用には限界があるとの見方だ。

軌道データセンターは概念としては実現可能でも、商用化には超大型再使用ロケットの本格運用、大規模な衛星量産、軽量な放熱技術、そして大幅なコスト低減が同時に進む必要がある。SpaceXが今後、AI1衛星の実際の打ち上げに踏み切れば、こうした技術的・経済的な前提が現実に成り立つかどうかが改めて問われることになる。

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