SpaceXのAI事業を巡り、当面の収益源は宇宙ではなく地上データセンターになるとの見方が強まっている。イーロン・マスク氏は長期的に軌道上でのコンピューティング構想を掲げるが、足元のAI収益は大規模なスーパーコンピュータークラスターの運用が支えているという。
米メディアのCryptopolitanが12日(現地時間)に報じたところによると、ウォール街のアナリストは、SpaceXのAI事業の中核を「宇宙コンピューティング」ではなく地上AIインフラにあるとみている。軌道上データセンターはあくまで長期構想で、現時点の収益はデータセンターとコンピューティングサービスの契約が支えているとの見立てだ。
SpaceXはすでに企業向けにAIコンピューティングサービスを提供している。顧客にはAnthropic、Alphabet傘下のGoogle、Reflection AIなどが含まれる。
これらの顧客と結んだスーパーコンピュータークラスター「Colossus」関連契約による想定年間売上高は、280億ドル超に上ると推計された。ただ、契約には解除条項が含まれており、全額を安定的な継続収益とみなすのは難しいとの指摘もある。
既存のAI事業も急拡大している。2025年のAI関連売上高は約32億ドルと集計された。Cryptopolitanによると、コンピューティングサービス売上高は、ロケット打ち上げ事業、Starlink事業のそれぞれを単独で上回る規模だったという。
投資も積極化している。SpaceXは昨年、AIインフラと研究開発(R&D)に約180億ドルを投じた。内訳は、データセンターなどのインフラ整備に約127億ドル、研究開発に51億ドル。宇宙打ち上げや衛星通信事業への投資額を上回る水準だという。
AIインフラの中核を担うのが、スーパーコンピュータークラスター「Colossus」と「Colossus II」だ。2施設を合わせた計算能力は約1ギガワット(GW)と推計され、SpaceXは世界有数のAIコンピューティング事業者の一角と評価されている。JPモルガンは、同社の地上AIコンピューティング能力が2029年までに約9GWへ拡大すると予測した。
一方で、事業の広がりは単なるサーバー貸し出しにとどまらないとの見方もある。ロイターが引用した証券会社は、SpaceXによる600億ドル規模のAIコーディングスタートアップ「Cursor」買収を、AIアプリケーション事業拡大のシグナルと解釈した。
AI研究組織「SpaceXAI」がGrok 4.5をCursorと共同開発した点も、同じ文脈で注目を集めている。
もっとも、宇宙データセンター事業の本格立ち上がりには時間がかかるとの見方が優勢だ。Solon Partnersのアンソニー・ミロバンチェフ・アルトマン氏は、軌道上コンピューティングが地上データセンターを代替するとの見通しについて「やや誇張されている」と指摘し、実際に大きな変化が表れるまでには10年以上かかると予測した。
技術面のハードルも高い。宇宙コンピューティングの実現には、Starshipによる低コスト・高頻度打ち上げ体制の確立と次世代衛星ハードウェアの確保が前提となるが、こうした中核技術はまだ大規模な実証段階に至っていないとされる。Bank of America(BofA)も、軌道上データセンター事業は未実証の技術課題の克服に大きく依存すると評価した。
それでも、長期的な可能性は残る。Starshipを活用して太陽光ベースのコンピューティング衛星を軌道上に展開できれば、地上データセンターが抱える電力、冷却、用地の各コストを抑えられるためだ。
市場の関心は、宇宙データセンターの将来像そのものよりも、SpaceXが地上AIインフラ事業をどの程度のスピードで拡大できるかに向かっている。業界では当面、AI事業の価値を左右するのは宇宙コンピューティングではなく、データセンター増強のペースと大口顧客契約を維持できるかどうかだとみられている。